フラの歌詞やハワイの地名で目にする、小さな「ʻ」と母音の上の横棒。
「ʻ」はオキナ、「¯」はカハコーと呼ばれ、どちらもハワイ語の音を正しく伝えるために大切なものです。
けれども、ハワイ語はもともと文字を持たない、声で受け継がれてきた言葉でした。
では、今わたしたちが目にするアルファベットや、オキナ、カハコーは、いつから使われるようになったのでしょう。
その歴史をたどると、小さな記号の向こうに、ハワイ語の「声」を文字に残そうとしてきた歩みが見えてきます。
声から文字になったハワイ語
文字がなかった時代、ハワイの人々は歴史や系譜、物語、祈りなどを声で次の世代へ伝えていました。
メレ(mele/歌)やオリ(oli/詠唱)も、その大切な役割を担っていました。
大切なことを覚え、語り、歌い、次の世代へ渡していく。
人の声と記憶が、文化を受け継ぐ大切な力だったのです。
19世紀になると、ハワイ語をアルファベットで書く試みが本格的に始まります。
文字化にはアメリカから来た宣教師だけでなく、ハワイ人やタヒチ人なども関わり、ハワイ語の音をどのように文字で表すかが検討されました。
1822年には初期のハワイ語教材が印刷され、1826年ごろには、現在につながるシンプルなアルファベットへと整理されていきます。
ハワイの人々は新しい文字を積極的に取り入れました。
やがて新聞や手紙、本などにもハワイ語が使われ、たくさんの言葉が紙の上に残されるようになります。
けれども、最初のアルファベットだけでは、ハワイ語の音をすべて表すことはできませんでした。
オキナは小さな一文字
オキナ(ʻokina)は「ʻ」の形をした文字です。
見た目はアポストロフィに似ていますが、単なる飾りではありません。ハワイ語では一つの文字として扱われます。
オキナが表しているのは、声門閉鎖音と呼ばれる音です。
少し難しい名前ですが、喉で一瞬声を止めるように発音します。
たとえば、オハナ(ʻohana/家族)。
語頭にあるオキナを意識すると、最初にほんの少し声を区切ってから「オハナ」と発音します。
日本語でまったく同じ音を表すのは難しいのですが、「あっ、あった」と言うときの、「あっ」と「あ」の間で一瞬息が止まる感覚を思い浮かべると分かりやすいでしょう。
オキナは小さくても、ハワイ語の音を伝える大切な一文字です。

カハコーで意味も変わる
もう一つ大切なのが、カハコー(kahakō)です。
カハコーは母音の上に付く横棒で、その母音を長く発音することを表します。
アー(ā)、エー(ē)、イー(ī)、オー(ō)、ウー(ū)のように、少し長く響かせます。
母音の長さによって、言葉の意味そのものが変わることもあります。
分かりやすいのが、フラでよく目にするパーウ(pāʻū/スカート)です。
よく似たパウ(pau)には、「終わる」「完了する」といった意味があります。
パーウにはオキナとカハコーの両方があります。
ほんの小さな「ʻ」と一本の線ですが、それを取ってしまうと別の言葉になります。

記号はどう定着した?
古いハワイ語新聞や文書を見ると、現在なら付いているオキナやカハコーが書かれていないことがあります。
これは、当時の表記方法が現在とは異なっていたためです。
ハワイ語には声門閉鎖音や長母音がもともとありましたが、初期の表記では、それらが現在のように一貫して文字に示されていたわけではありません。
その後、辞書の編纂やハワイ語研究が進み、音の違いを文字の上でも分かるようにする表記が整えられていきます。
20世紀には、ハワイ語とハワイ文化を伝えたメアリー・カウェナ・プクイ(Mary Kawena Pukui)や、言語学者サミュエル・エルバート(Samuel H. Elbert)らの辞書編纂も、現在の表記が広く使われるうえで大きな役割を果たしました。
オキナやカハコーは、誰か一人がある日突然考え出したものではありません。
ハワイ語をより正確に書き残そうとする長い歩みの中で、現在の表記へと整えられてきたのです。
フラで聞く10の言葉
フラで聞く10の言葉
フラを始めると、何度も耳にするハワイ語があります。
アロハ、マハロ、オハナ、メレ、フラ。ハワイ語には、日本語と同じように母音で終わる音が多いという小さな共通点があります。言葉のルーツは異なりますが、遠く離れた二つの言葉にこんな共通点があるのも面白いですね。
では、意味と一緒に、オキナやカハコーにも目を向けてみましょう。
- アロハ(aloha/愛・思いやり・あいさつ)
「こんにちは」「さようなら」としてよく知られていますが、愛や思いやりなど、もっと広い意味を持つ言葉です。
- オハナ(ʻohana/家族)
家族を表す言葉です。語頭にオキナがあります。
- フラ(hula/踊り)
ハワイの物語や思いを、メレや身体の動きを通して伝える文化です。
- メレ(mele/歌・詠唱)
歌や詠唱を表す言葉で、フラでもよく耳にします。
- カヒコ(kahiko/古い・昔の)
フラでは、伝統的なスタイルを表すフラ・カヒコ(hula kahiko)という言葉でよく耳にします。
- アウアナ(ʻauana/さまよう・歩き回る)
フラでは、近代以降に発展したスタイルを表すフラ・アウアナ(hula ʻauana)という言葉でよく耳にします。語頭にオキナがあります。
- クム(kumu/先生・源)
フラの先生はクム・フラ(kumu hula)と呼ばれます。クムには「源」「基礎」などの意味もあります。
- マハロ(mahalo/感謝・敬意)
「ありがとう」としてよく知られています。
- パーウ(pāʻū/スカート)
フラで使われるスカートを表す言葉です。オキナとカハコーの両方が入り、小さな記号によって発音も意味も変わることがよく分かります。
- ケイキ(keiki/子ども)
子どもを表す言葉で、フラ教室などでもよく耳にします。
いつも聞いている言葉も、オキナやカハコーまで意識して見ると、少し違って見えてきます。
メレの音を聴いてみる
オキナやカハコーを覚えるのは、ただ「正しく発音しなければ」と緊張するためではありません。
フラでメレを歌うとき、その言葉をもう少し丁寧に受け取るための手がかりになります。
オキナがあれば、そこでほんの一瞬声を区切る。
カハコーがあれば、その母音を少し長く響かせる。
最初から完璧に発音できなくても大丈夫です。
歌詞の中の小さな記号に気づくだけでも、これまで一続きに見えていたハワイ語の中に、音の違いが少しずつ見えてきます。
その音を意識してメレを聞き直すと、今まで気づかなかった響きが聞こえてくることもあるでしょう。
小さな記号が守る声
ハワイ語が文字になるよりずっと前から、オキナが表す一瞬の間も、カハコーが表す長い母音も、人々の声の中にありました。
歴史や系譜、祈りや物語を、人から人へ。
声から声へ。
そうしてハワイ語は受け継がれてきました。
今、私たちがメレの中で目にする小さな「ʻ」や、母音の上の一本の線は、その声を文字の上にも残してくれています。
次にメレを開いたとき、小さなオキナやカハコーにも、少しだけ目を留めてみてください。
一度、声を止める。
母音を、少し長く響かせる。
すると、いつも歌っているメレの中から、今まで気づかなかったハワイ語の響きが聞こえてくるかもしれません。
参考資料
Mary Kawena Pukui, Samuel H. Elbert, Hawaiian Dictionary/ Albert J. Schütz, The Voices of Eden: A History of Hawaiian Language Studies/ University of Hawaiʻi at Hilo, Hale Kuamoʻo Hawaiian Language Center/ University of Hawaiʻi, Hawaiian Language Considerations/ Ulukau: The Hawaiian Electronic Library/ Hawaiian Mission Houses Historic Site and Archives

