太鼓の音が、ペレをロヒアウへ導く
ある日、ペレは妹たちに、誰にも起こさないよう言い残して眠りにつきました。
体を横たえたのは、滑らかな溶岩の岩肌です。やがてペレが深い眠りに落ちると、どこからともなくフラの太鼓の音が聞こえてきました。
かすかだった音は、耳を澄ますほど遠ざかっていきます。
ペレの霊は眠る体を離れ、太鼓の音を追いかけました。
海を越え、島々の岬をたどっても、音の主はなかなか姿を現しません。ようやくペレが行き着いたのは、カウアイ島の北にあるハエナでした。
そこでは、大勢の人が集まり、フラが行われていました。
ペレがハーラウと呼ばれるフラの広間へ近づくと、人々は見知らぬ女性の姿に気づきます。道を開けた人々の間を進んだペレは、やがて一人の若い首長に目を留めました。
彼の名は、ロヒアウ。
フラの輪の中にいたロヒアウも、近づいてくるペレを見つめていました。太鼓も歌も止まり、広間は不思議な静けさに包まれます。
ペレは歌を唱え、ロヒアウは客人として彼女を迎えました。
二人は強く引かれ合い、そのまま三日三晩をともに過ごします。
けれども、ペレの体は遠いハワイ島で眠ったままです。いつまでもハエナに残ることはできませんでした。
三日目の夜が明けようとするころ、ペレはロヒアウに告げます。
自分はプナへ帰らなければならないこと。二人で暮らす場所を用意したら、女性を迎えに向かわせること。その女性が来たら、一緒にハワイ島へ来てほしいこと。
そう言い残すと、ペレは家を飛び出し、海の彼方へ消えていきました。
目を覚ましたロヒアウの隣には、もう誰もいません。
残されていたのは、再び会えるという約束だけでした。
姉妹が交わした、二つの約束
ハワイ島へ戻ったペレは、妹たちを集めました。
カウアイ島のハエナにいるロヒアウを、ここまで迎えに行ってほしい。ペレはそう頼みます。
しかし、島から島へ海を渡る道には、恐ろしい怪物や不思議な力を持つ者たちが待ち受けていました。旅の危険を知る妹たちは、誰も引き受けようとしません。
そこでペレが呼び寄せたのが、末の妹ヒイアカでした。
正式な名は、ヒイアカイカポリオペレ。「ペレの胸に抱かれたヒイアカ」という意味です。卵の姿だったころ、ペレが大切に抱いて海を渡った、あの妹でした。
そのころヒイアカは、プナの海辺で親しい友人ホーポエと過ごしていました。ホーポエはフラをよく知り、ヒイアカとともに踊る大切な仲間です。
ペレからの使いが到着する前から、ヒイアカは自分に長い旅が迫っていることを感じ取っていました。
呼び出されたヒイアカがキラウエアへ行くと、ペレは尋ねます。
カウアイ島まで行き、ロヒアウを連れて帰ってくれるか。
ほかの妹たちが恐れて断った旅でした。それでもヒイアカは、姉への思いから引き受けます。
けれども、旅には約束が必要でした。
まずペレは、帰り道でロヒアウに口づけをしたり、親密に触れたりしてはならないと告げました。二人がハワイ島へ戻ったあとも、最初の五日五晩はペレがロヒアウと過ごします。その期間が終われば、ロヒアウはヒイアカの伴侶となってよいという条件でした。
ヒイアカは、その約束を受け入れます。
そして今度は、ヒイアカがペレに二つの願いを伝えました。
自分が留守にしている間、プナにある大切なレフアの森を焼かないこと。
そして、親しい友人ホーポエを決して傷つけないこと。
ペレは、どちらの願いも守ると約束しました。

こうして姉妹の間に、互いの大切なものを守るための約束が交わされます。
ヒイアカが守るのは、姉が待つロヒアウ。
ペレが守るのは、妹が愛する森とホーポエ。
このときヒイアカは、長い旅の先で、この約束が物語のすべてを変えることをまだ知りませんでした。
森そのものが、敵になった
ヒイアカは、ペレに仕えるパウオパラエとともに、カウアイ島を目指して旅を続けていました。
その途中で出会ったのが、ワヒネオマオという若い女性です。
ワヒネオマオは、初めてヒイアカを見たとき、その気高い姿からペレ本人だと思いました。しかし、目の前にいるのがペレの末妹だと知ると、やがて二人の旅に加わります。

こうして、三人になった一行の前に、深い森が現れました。
パナエワの森です。
海辺を回れば、安全な道を進むことができます。しかし、それではカウアイ島に着くまでに時間がかかります。
ヒイアカは、森を抜ける近道を選びました。
ところが、森へ足を踏み入れたとたん、あたりの空気が変わります。
絡み合う木の枝。足元を覆う蔓。どこから聞こえてくるのか分からない鳥の声。
風がないのに葉が揺れ、ただの倒木に見えたものが、いつの間にか別の場所へ動いています。
この森を支配していたのは、パナエワという強大なモオでした。モオは、人や動物、木々の姿にも変わるとされる不思議な存在です。
ヒイアカたちが森へ入ったことは、すでにパナエワに知られていました。
道をふさぐ木も、枝から見下ろす鳥も、本当にただの木や鳥なのでしょうか。
ワヒネオマオには、何が敵なのか分かりません。
けれども、ヒイアカには見えていました。
静かに見える森のあちこちから、パナエワの仲間たちが三人を取り囲もうとしていたのです。
やがて森全体が目を覚ましたように動き始めました。
木々が道を閉ざし、蔓が足元へ伸び、隠れていた者たちが次々と姿を現します。
ヒイアカは逃げませんでした。
オリを唱え、助けを求めると、空を覆っていた雲が動きます。
風が森を駆け抜け、雨が激しく降り始めました。雷が鳴り響き、木の姿に隠れていた者たちは次々と倒れていきます。
パナエワの森は、ヒイアカたちをのみ込むことができませんでした。
三人はついに、出口の見えなかった森を抜けます。
旅の最初の大きな試練を越えたことで、ワヒネオマオはヒイアカの力を知り、ただの旅人ではなく、危険な道をともに進む仲間となりました。
けれども、森を抜けたヒイアカを待っていたのは、喜びではありません。
カウアイ島へ向かう道の先から、ロヒアウの運命を変える知らせが近づいていました。
死の知らせを越えて、ハエナへ
パナエワの森を抜けても、ヒイアカの旅はまだ終わりません。
一行は島々を進み、ロヒアウが待つカウアイ島を目指しました。
ところが、ワヒネカプと呼ばれる高地まで来たとき、ヒイアカが突然足を止めます。
遠く離れた場所で、何かが起きていました。
ヒイアカには分かりました。
ロヒアウは、もう生きてはいなかったのです。
まだカウアイ島にも着いていないのに、迎えに行くはずの相手が亡くなっている。ここまで危険な森を越えてきた旅が、すべて無駄になってしまったようにも思えます。
それでも、ヒイアカは引き返しませんでした。
ロヒアウの命が失われたからといって、姉から託された役目まで終わったわけではありません。
ヒイアカには、傷ついた者を癒やし、離れてしまった魂を呼び戻す力がありました。
一行は先を急ぎ、ついにカウアイ島北部のハエナへたどり着きます。
かつてペレが太鼓の音に導かれ、多くの人がフラを楽しんでいた場所です。
けれども、今のハエナに、あのにぎわいはありませんでした。
ペレが突然姿を消したあと、ロヒアウは再び会える日を待ち続けました。しかし、迎えはなかなかやって来ません。
絶望したロヒアウは、自ら命を絶っていたのです。
ようやく見つけたロヒアウは、声をかけても動きません。
けれども、ヒイアカは諦めませんでした。
ロヒアウのそばに立ち、魂を呼び戻すオリを唱えます。

一度で戻らなくても、呼びかけをやめません。
遠くへ離れてしまった魂を探し、少しずつ身体へ導いていきます。
やがて、失われていたロヒアウの魂が戻りました。
死んでいたロヒアウは、もう一度この世に目を開いたのです。
ヒイアカは、ペレの迎えとしてハワイ島から来たことを伝えました。
長く待ち続けていたロヒアウは、ヒイアカとともにペレのもとへ向かうことになります。
こうして、失われたはずの命を取り戻し、一行は帰りの旅へ出発しました。
ヒイアカは、姉との約束を守っています。
帰り道でロヒアウに親密に触れることもなく、ペレの待つキラウエアを目指して進みます。
そしてヒイアカは、姉もまた、レフアの森とホーポエを守るという約束を果たしていると信じていました。
破られた約束と、思いがけない再会
ロヒアウを連れたヒイアカは、長い帰り道を進んでいました。
姉から託された役目は、もうすぐ終わります。
ところが、ハワイ島へ近づいたヒイアカは、遠くの空に不吉なものを見ました。
山の向こうから、炎を映したような雲が湧き上がっています。
その光景を見た瞬間、ヒイアカには故郷で起きたことが分かりました。
大切に育ててきたレフアの森は、火に焼かれていました。
そして、帰りを待っていたはずのホーポエは、溶岩にのみ込まれ、海辺で波に揺られる岩の姿になっていたのです。

ヒイアカは、姉との約束を守ってきました。
どれほど長い旅になっても引き返さず、死んでいたロヒアウをよみがえらせ、帰り道でも彼に親密に触れることはありませんでした。
それなのにペレは、妹が守ってほしいと願った二つのものを、どちらも奪ってしまったのです。
やがて一行は、キラウエアへたどり着きました。
火口の向こうでは、ペレと姉妹たちが帰還を見つめています。
ヒイアカは赤いレフアの花を摘み、レイを編みました。一つを自分の首にかけ、残りをロヒアウにかけます。
そして、ペレからよく見える場所で、ロヒアウを強く抱き寄せました。

それは、帰り道で交わした約束を破る行為でした。
けれども、先に約束を壊したのはペレです。
姉妹たちが騒ぎ始めても、ペレはしばらく動きませんでした。
しかし、ヒイアカとロヒアウが抱き合う姿を見ると、その顔が変わります。
ペレは、ロヒアウを火で攻めるよう命じました。
炎がロヒアウを包みます。
ヒイアカが一度は死の世界から連れ戻したロヒアウは、キラウエアで再び命を失ってしまいました。
これまで姉のために危険な旅を続けてきたヒイアカも、もう以前のようにペレのそばへ戻ることはできませんでした。
ヒイアカはキラウエアを離れ、ロヒアウの故郷であるカウアイ島へ向かうことを決めます。
けれども、物語は悲しい別れだけでは終わりません。
ロヒアウの魂は、海の上をさまよっていました。
それを見つけたのが、ペレの兄カネミロハイです。
カネミロハイはロヒアウの魂を捕らえ、焼けて固まった体を見つけると、ばらばらにした体を元の姿へ組み直しました。そして、魂をその中へ戻します。
ロヒアウは、二度目の命を得たのです。
そのころヒイアカは、旅の途中でオアフ島のフラの場を訪れていました。
ヒイアカが歌い始めると、人々の中から、その歌に答える声が聞こえてきます。
聞き覚えのある声でした。
ヒイアカが振り返ると、そこにロヒアウがいました。
死んだと思っていたロヒアウが、人々の間から姿を現したのです。
長い旅の始まりには、ヒイアカはただ、姉の願いをかなえるために歩き出しました。
けれどもその旅の中で、怪物と戦い、仲間を得て、失われた命を救い、最後には姉の意志にも立ち向かう存在へと変わっていました。
二度も死を越えたロヒアウは、差し伸べられたヒイアカの腕の中へ向かいます。
こうして二人は、ようやく再会しました。

ホーポエとレフアの森を失った悲しみが消えたわけではありません。
それでもヒイアカは、誰かに決められた道ではなく、自分で選んだ新しい道を歩き始めたのです。
注 記
ヒイアカとロヒアウの物語には、出来事の順序や結末が異なる複数の伝え方があります。本記事では、Nathaniel B. Emersonが1915年に刊行した『Pele and Hiiaka』を主軸に、一続きの物語として紹介しました。
【主要参照資料】
Emerson, Nathaniel B. Pele and Hiiaka: A Myth from Hawaii. Honolulu: Honolulu Star-Bulletin, 1915.
U.S. National Park Service. “Pele & Hiʻiaka.” Hawaiʻi Volcanoes National Park.
Beckwith, Martha Warren. Hawaiian Mythology. New Haven: Yale University Press, 1940. Chapter X, “The Soul after Death”; Chapter XII, “The Pele Sisters.”
Westervelt, W. D. Hawaiian Legends of Volcanoes. Boston: G. H. Ellis Press, 1916. Chapters XII–XVII.

