火を授かったペレ、故郷を離れる
遠い海の彼方に、カヒキと呼ばれる土地がありました。
火の女神ペレが生まれ育った故郷です。
ペレには、ほかの者にはない力がありました。大地の下に眠る火を呼び起こす力です。その扱い方を教えたのは、火の神である叔父ロノマクアでした。
ロノマクアはペレに、パーオアという神聖な掘り棒を授けます。

ペレがパーオアで大地を掘ると、土の奥から熱が立ちのぼり、やがて火が姿を現しました。
ところが、ペレの力はあまりにも大きなものでした。
ある日、ロノマクアが留守にしている間に、ペレは自分で火を起こします。火はたちまち広がり、ついには故郷の神聖な土地まで焼いてしまいました。
この出来事に激しく怒ったのが、ペレの姉ナーマカオカハイです。
ナーマカオカハイは、海の力を持つ女神でした。大地から火を呼び起こす妹と、その火をのみ込む海を支配する姉。二人の力がぶつかれば、故郷はさらに大きな災いに見舞われるかもしれません。
ペレの両親は、家族が安心して暮らせる新しい土地を探すよう、ペレに告げました。
こうしてペレは、生まれ育ったカヒキを離れることになります。
叔父から授かったパーオアを携え、家族とともに、まだ誰も見たことのない土地を目指すのです。
しかし、旅立てば姉の怒りから逃れられるわけではありません。
家族を乗せたカヌーは海へ
ペレたちの航海を導いたのは、最年長の兄カモホアリイでした。
カモホアリイは鮫の神で、広い海を渡る道を知る存在です。
一行が乗り込んだ航海カヌーには、ホヌアイアケアという名が付けられていました。「広大な地」を意味する、新しい住みかを探す旅にふさわしい名前です。
ペレは一人で海へ出るのではありませんでした。兄弟姉妹たちもカヌーに乗り込み、家族が安心して暮らせる土地を目指します。
ペレが大切に抱えていたのは、末の妹ヒイアカでした。
ヒイアカは、まだ卵の姿をしていたと伝えられています。ペレは小さな妹を連れ、故郷の岸をあとにしました。
やがて、ホヌアイアケアは果ての見えない海へ漕ぎ出します。
航海を導くカモホアリイにも、新しい土地がどこにあるのかは分かりません。それでも一行は、水平線の向こうを目指して進みました。

しかも、ペレたちの背後からは、海の女神ナーマカオカハイが迫ってきます。
姉が起こす波は、家族を乗せたカヌーを追い立てるように押し寄せました。
火の力を抱いて進むペレ。
その火を消そうと追ってくる海の姉。
一行は荒れる海を越え、ハワイ諸島の北西に連なる島々を進みます。そして長い航海の末、ついにカウアイ島へたどり着きました。
新しい土地を前にしたペレは、叔父から授かった掘り棒パーオアを手に取ります。
ここなら、自分の火を宿せるかもしれません。
ペレはその願いを込めて、カウアイの大地へパーオアを突き立てました。
火の住みかはいったいどこに?
カウアイ島へたどり着いたペレは、さっそくパーオアで大地を掘りました。
地の底から火が現れ、ペレはそこを新しい住みかにしようとします。けれども、安らげる時間は長く続きませんでした。
追いついたナーマカオカハイが大波を起こし、ペレの火をのみ込んでしまったのです。

ペレはカウアイ島を離れ、次の島へ向かいました。
オアフ島でも、ペレは大地を掘って火を起こします。その場所は、現在のレアヒ、ダイヤモンドヘッドに結びつくと伝えられています。
ところが、ここでも海水が押し寄せました。
火を起こしても、海に消される。
新しい場所を見つけても、姉が追ってくる。
ペレはモロカイ島を経て、さらにマウイ島へ進みました。しかし、そこでも安心して火を置ける場所は見つかりません。
やがてペレは、ハレアカラーの西側で、ナーマカオカハイと向き合うことになります。
今度は逃げませんでした。
火の妹と、海の姉。

二人は激しく戦い、ついにナーマカオカハイがペレの体を引き裂きました。砕かれた骨はマウイ島のカヒキヌイに散り、その場所はナイヴィオペレ、ペレの骨と呼ばれるようになったと伝えられています。
ナーマカオカハイは、長く続いた追跡が終わったと思いました。
ペレはもう二度と、火を起こすことはできないはずでした。
ところがそのとき、はるか彼方の空が赤く染まりました。
ハワイ島のマウナロアから、火が噴き上がっていたのです。
ペレがたどり着いたキラウエア
遠くの空を赤く染めていたのは、ペレの火でした。
ナーマカオカハイは、その光を見て気づきます。マウイ島で倒したのは、ペレの体だけだったのです。
肉体を失っても、ペレの力は消えていませんでした。
魂となったペレは、海を越えてハワイ島へ進みます。そして、火を宿せる土地を探しながら、キラウエアへたどり着きました。
ペレは叔父から授かった掘り棒パーオアを、もう一度大地へ突き立てます。
これまでの島では、火を起こすたびに海が押し寄せました。けれども、キラウエアでは違いました。
大地は熱を帯び、ペレの火を受け止めます。
ペレは、ようやく自分の力が生きられる場所を見つけたのです。
その住みかに選ばれたのが、キラウエア火山の火口にあるハレマウマウでした。ハレマウマウは、現在もペレが住む場所として語り継がれています。

故郷を離れ、果ての見えない海を渡り、島から島へと進んだペレ。
何度火を消されても、姉との戦いで肉体を失っても、その旅は終わりませんでした。
ペレが探していたのは、ただ身を隠す場所ではありません。
自分の火とともに生きられる土地でした。
そして長い旅の果てに、ペレはついにキラウエアへたどり着いたのです。
この物語にはいくつもの伝え方があります
ペレがカヒキを離れ、ハワイ諸島を進んでキラウエアへたどり着く物語には、いくつもの伝え方があります。
ペレが故郷を離れた理由を、姉ナーマカオカハイによる追放とする物語もあれば、家族とともに新しい土地を求めた移住の旅として語るものもあります。
両親の名前や旅に加わった家族、島々を進んだ道筋も、資料によって同じではありません。キラウエアに着いたペレが、先に火を守っていたアイラアウと出会う物語も伝えられています。
この記事では、複数ある伝承のうち、米国国立公園局(NPS)が紹介する「Holo Mai Pele(ペレの旅)」の物語の流れを主軸にしました。異なる伝承を途中で混ぜず、ペレが火の住みかを探してキラウエアへ至るまでを、一続きの物語としてたどっています。
けれども、どの伝え方にも共通しているのは、ペレが遠い海を越え、島々を進み、最後にハワイ島の火山と深く結びついたことです。
そして、ペレの物語はここで終わりません。
次に旅へ出るのは、ペレが卵のころから大切に守ってきた末の妹ヒイアカです。
姉から託された使命を胸に、ヒイアカはカウアイ島にいるロヒアウを迎えるため、長く危険な旅へ向かいます。
【主要参照資料】
U.S. National Park Service. “Holo Mai Pele (The Journey of Pele).” Hawaiʻi Volcanoes National Park.
U.S. National Park Service. “Pele.” Hawaiʻi Volcanoes National Park.
Emerson, Nathaniel B. Pele and Hiiaka: A Myth from Hawaii. Honolulu Star-Bulletin, 1915.
Beckwith, Martha Warren. Hawaiian Mythology. Yale University Press, 1940. Chapter XII, “The Pele Sisters”; Chapter XIII, “Pele Legends.”

