火に向かって、ロヒアウが唱えたもの
ロノマクア(Lonomakua)が起こした火に、ロヒアウはチャントで応じます。
ペレはロヒアウを焼くよう命じました。
その命令を受けて火が起こされた以上、ロヒアウはもう、ただキラウエアに連れてこられた客ではありません。
自分の命に向けられたペレの火と、直接向き合うことになったのです。
けれどロヒアウは、何もせずに火を受けるわけではありませんでした。
声を上げ、チャントを唱えます。
ここまでの旅で、メレやチャントは何度も物語を動かしてきました。
ヒイアカは旅の途中で声を使い、土地や存在に働きかけ、人を助けてきました。
そして今度は、ロヒアウ自身が声を使ってペレの火に向かいます。
ところが、そのロヒアウのチャントを聞いたヒイアカは、そこに重大な問題があることを指摘します。
問題は、ロヒアウが何もできなかったことではありません。
むしろ、最初に何をしたのかでした。

先に唱えるべきものがあった
ヒイアカが問題にしたのは、チャントの順番です。
ロヒアウは、プーレ・ホオクウ(pule hoʻokuʻu)より先に、ペレの火に対する別のチャントを唱えてしまいました。
プーレ(pule)は祈り。
ホオクウ(hoʻokuʻu)は、放す、解き放つ、終わらせるといった意味を持つ言葉です。
この場面では、ロヒアウが先に行うべき祈りとしてプーレ・ホオクウが出てきます。
しかしロヒアウは、その前にペレの火へ対抗するチャントを唱えました。
ヒイアカは、それを大きな誤りとして指摘します。
ここがおもしろいところです。
ロヒアウを襲っているのは、圧倒的な火です。
けれど物語が問題にするのは、単純に「火が強すぎた」ということだけではありません。
何を唱えるのか。
そして、それをいつ唱えるのか。
その順番までが、ロヒアウの身に起きることと結びついているのです。
カウアイで死んでいたロヒアウを生き返らせるときにも、魂と身体、祈りやチャントが物語の大切な要素になっていました。
二度目の死を目前にしたここでも、やはり「声」が重要な役割を持っています。
しかし今回は、一度目と同じ結果にはなりませんでした。

パーホエホエが、ロヒアウを覆う
ロヒアウがチャントを唱えても、火の勢いは止まりません。
やがてパーホエホエ(pāhoehoe)が、ロヒアウの身体を覆っていきます。
パーホエホエは、ハワイの火山で見られる溶岩を表すハワイ語です。
冷えて固まった表面が比較的なめらかで、縄を重ねたような形になることもあります。
ハワイの火山を紹介する写真などで目にすることの多い言葉ですが、このモオレロでは単なる火山用語として登場するのではありません。
そのパーホエホエが、ロヒアウの身体を覆うのです。
カウアイのハーエナで一度死に、ヒイアカによって魂を身体へ戻され、ようやく生き返ったロヒアウ。
そのあと海で波乗りをし、ヒイアカとともにカウアイを離れ、オアフを越えてハワイ島まで戻ってきました。
長い旅の末にたどり着いたキラウエアで、ロヒアウは再び死に直面します。
そして今度は、ヒイアカが迎えに来るのを待っていた最初の死とは違います。
ペレの命令によって起こされた火の中で、パーホエホエが身体を覆っていきました。

ロヒアウの魂は、再び身体を離れた
そしてロヒアウは、二度目の死を迎えます。
ウハネ(ʻuhane=魂)は、パーホエホエに覆われたキノ(kino=身体)から離れます。
一度目にロヒアウが死んだとき、ヒイアカはカウアイまで旅をして、その魂を取り戻しました。
けれど、二度目は同じ物語にはなりません。
ロヒアウのウハネは身体を離れ、別の道を進み始めます。
そしてヒイアカもまた、すぐに一度目と同じ方法でロヒアウを蘇生するのではありません。
ロヒアウが死んだあと、ヒイアカはロヒアウを探してキラウエアの下へ向かいます。
そこで彼女が手をつけるのは、火口の表面だけではありません。
キラウエアの下に重なる層そのものです。
一人の男の二度目の死から始まった出来事は、ここからペレの住処であるキラウエア全体を揺るがすほどのものへ変わっていきます。
ロヒアウの魂は、どこへ行くのか。
そしてヒイアカは、キラウエアの下で何をするのか。
物語は、さらに深い場所へ進んでいきます。


