姉が渡った海を妹が戻っていく
ヒイアカたちは、ついにハワイ島を離れるところまで来ました。
ここから彼女は、かつてペレがたどってきた島々を、今度は反対の方向へ進んでいくことになります。
ペレは自分の火を置く場所を求めて、マウイからハワイ島へ渡りました。
その道を今度は、末の妹ヒイアカが戻っていくのです。
けれど、二人の旅の目的はまったく違います。
ペレが探していたのは、自分たち一族が暮らせる土地。
ヒイアカが目指しているのは、遠いカウアイにいるロヒアウです。
パナエワの森を越え、仲間を失い、それでも三人はハワイ島の北東側を進んできました。
そして今、行く手を隔てているのは海です。
その向こうにあるのが、マウイ(Maui)。
歩いて渡ることはできません。
ヒイアカ、パーウオパラア、ワヒネオーマオの三人は、海を渡るための舟を求めます。
そこで出会ったのが、二人の漁師でした。

舟が向かったのはヒイアカが選んだ岸
二人の漁師の舟に乗り、ヒイアカたちはハワイ島を離れました。
海の向こうはマウイです。
ところが、舟が向かおうとしていた場所と、ヒイアカが上陸したい場所は違っていました。
漁師たちが目指していたのは、ホヌアウラ(Honuaʻula)。
ヒイアカが望んだのは、カヒキヌイ(Kahikinui)でした。
舟を操るのは漁師たちです。
けれど、海の上で進む方向を決めたのは、彼らではありませんでした。
ヒイアカが力を働かせると、風と海の流れが変わります。
舟はホヌアウラではなく、カヒキヌイへ。
こうしてヒイアカたちは、自分たちが望んだ岸へたどり着きました。
パナエワでは、行く手を阻む相手と戦ったヒイアカ。
今度は海そのものに働きかけ、進む道を開いたのです。
そしてカヒキヌイに上陸すると、そこではヒイアカたちを迎える人々がいました。
旅人にとって、食事を与えられ、迎え入れられることは大きな意味を持ちます。
けれど、この出会いも単なる休息では終わりません。
マウイを進むにつれて、ヒイアカたちはこの島ならではの新たな出来事へ巻き込まれていきます。

生のルアウを食べたヒイアカ
カヒキヌイに上陸したヒイアカたちは、マウイで親族のカポクーラニ(Kapokūlani)に迎えられます。
旅人を迎えるために用意されたのは、豚肉とルアウ(lūʻau)。ルアウとは、タロの若い葉を使う料理です。
ところがヒイアカは、周囲を驚かせる行動を見せます。まだ火を通していないルアウを、そのまま口にしたのです。
タロの葉は、十分に加熱しなければ口や喉を強く刺激します。普通の人なら生では食べないものを、ヒイアカは食べました。この物語では、それが女神の力を示す行動として描かれています。
パナエワでは戦い、海では風と流れを変えたヒイアカ。マウイでは、食事という身近な場面にも、その特別な力が現れます。
旅を続ける一人の女性の姿をしていても、ヒイアカが普通の人間ではないことが、こんな意外な出来事からも見えてくるのです。
食事を終えた一行は、さらにマウイを進んでいきます。その先には、不思議な出会いが待っていました。

カハクロアで出会った不思議な踊り手
マウイを進むヒイアカとワヒネオーマオは、カハクロア(Kahakuloa)の海を見下ろす高台へやってきます。
そこでヒイアカの目に、不思議な女性の姿が映りました。
海辺の岩の上で、一人の女性が踊っていたのです。
その女性の名は、マナマナイアカルエア(Manamanaʻiakalua)。
手足が不自由な姿でありながら、彼女は岩場で踊っていました。
ところが、ワヒネオーマオにはその姿が見えません。
ヒイアカに見えていたのは、生身の人間ではなく、霊的な存在だったのです。
ヒイアカは彼女にハラ(hala)の実を投げて与えます。
するとマナマナイアカルエアは、それを喜び、ひとつのメレを歌いました。
「Ke lei maila ʻo Kaʻula i ke kai」。
その歌には、カウラ、ニイハウ、そしてカウアイのナウエ(Nāue)へと続く島々が織り込まれています。
さらに、ヒイアカが来たプナやキラウエアへも歌はつながっていきます。
つまりマナマナイアカルエアは、目の前にいる旅人がどこから来て、どちらへ向かっているのかを知っていたのです。
しかも、このメレはそこで消えてしまった歌ではありません。
のちのフラの伝統にも受け継がれ、レイを身につける場面と結びつくメレとして知られるようになります。
ロヒアウを迎えに行くための旅の途中で生まれる、土地と人と歌のつながり。
ヒイアカの旅では、こうして通り過ぎた場所そのものが、メレの中に残っていきます。
そして一行は、さらにマウイを進みます。
次に待っていたのは、歌を交わす穏やかな出会いとはまったく違うものでした。

三人の少女が渡した不吉なレイ
マウイでの出来事をあとにしても、ヒイアカたちの旅は続きます。
その途中、三人の少女からレイを贈られました。
使われていたのは、ハラ(hala)の実です。
ただの旅の贈り物なら、それで終わるはずでした。
けれどヒイアカは、そのレイを見て何かを感じ取ります。
ハラは、この物語の中でさまざまな意味を帯びる植物です。
そしてこのときヒイアカは、レイ・ハラから、遠いカウアイにいるロヒアウの身に何かが起きたのではないかと読み取りました。
ヒイアカが思い浮かべたのは、海に現れる白いサメと、陸に現れるモオ(moʻo)とのつながりです。
もしかすると、ロヒアウはすでにモオに命を奪われているのではないか。
まだカウアイには着いていません。
ロヒアウの姿を見たわけでもありません。
それでも、それまで「ロヒアウを連れて帰る旅」だったものに、初めて別の不安が入り込みます。
――カウアイへ着いたとき、ロヒアウは本当に生きているのか。
答えを確かめるには、まだいくつもの土地と海を越えなければなりません。
ヒイアカたちは旅を止めず、次の島へ向かいます。
その先に待つのは、モロカイ(Molokaʻi)です。


