海を越えた音の先に
ペレの霊的な側面がたどり着いたのは、カウアイ島北岸のハーエナ(Hāʻena)でした。
ハワイ島のプナからは、いくつもの島と海を隔てた場所です。
そこで響いていたのは、パフの音、フラ、そしてメレ。
その場でペレが出会ったのが、ハーエナのアリイ(aliʻi=高位の人物)、ロヒアウ(Lohiʻau)です。
ロヒアウは、ただ物語の途中で現れる男性ではありません。カウアイのハーエナと深く結びつき、フラやメレの世界に生きる人物として描かれています。
一方、ペレの身体は遠くハワイ島に残ったままです。
キラウエアで眠る身体と、海を越えてカウアイまで来た霊的な側面。
その二つが離れたまま、物語は進んでいきます。
ペレはハーエナでロヒアウと出会いました。
これまでペレを動かしてきたのは、自分の火を置く土地を探す旅でした。
けれど、ここから物語を動かすのは、土地ではありません。
一人の人物との出会いです。
そしてこの出会いが、キラウエアで眠るペレを守っている末の妹ヒイアカを、やがて海を越える長い旅へと向かわせることになります。

フラの中で出会ったロヒアウ
音を追ってハーエナへたどり着いたペレの前に現れたのが、ロヒアウ(Lohiʻau)でした。
ロヒアウは、カウアイ北岸のハーエナに結びつくアリイ(aliʻi=高位の人物)です。
そこではパフの響きやメレとともにフラがあり、ペレはロヒアウのフラを見て、彼に心をひかれていきます。
ここで、ペレの物語は大きく向きを変えます。
これまで彼女を動かしてきたのは、火をとどめられる土地を見つけることでした。海を越え、島を渡り、ようやくキラウエアという住処を得たばかりです。
ところが今度は、土地ではなく、一人の人物がペレの心を動かしました。
しかもロヒアウが暮らしているのは、ペレの身体が眠るハワイ島から遠く離れたカウアイです。
ペレはいつまでもハーエナにとどまることはできません。
やがてハワイ島へ戻るときが来ます。
けれど、ロヒアウとの出会いまでカウアイに置いて帰るつもりはありませんでした。
ペレの中に、ひとつの考えが生まれます。
ロヒアウを、キラウエアへ連れてくること。
その役目を誰に託すのか。
それが、次にペレ一族の姉妹たちへ突きつけられることになります。

目覚めたペレが、姉妹に頼んだこと
やがてペレは、ハワイ島で目を覚まします。
目覚めたペレの中には、ひとつの望みが残っていました。
ロヒアウを、カウアイから自分のいるハワイ島へ連れてくることです。
けれど、ペレ自身がもう一度カウアイへ向かうのではありませんでした。
ペレは姉妹たちに、ロヒアウを迎えに行く役目を求めます。
ところが、その役目を引き受ける者はなかなか現れません。
カウアイは、すぐ隣の島ではありません。
ハワイ島から見れば、マウイ、モロカイ、オアフを越え、さらに海を渡った先にあります。ペレ一族がかつて住処を探してたどってきた島々を、今度は反対方向へ進まなければならないのです。
その長い道のりを引き受けたのが、末の妹ヒイアカイカポリオペレ(Hiʻiakaikapoliopele)でした。
少し前まで、眠るペレの身体を守るため、姉のそばに残っていたヒイアカです。
今度はそのヒイアカが、姉のためにキラウエアを離れることになります。
けれど、ヒイアカはただ命じられるまま旅に出たわけではありませんでした。
大切なものを残していく彼女には、ペレに守ってもらわなければならないものがあったのです。
目覚めたペレが、姉妹に頼んだこと
やがてペレは目を覚ましました。
そして姉妹たちに、ひとつの役目を頼みます。
カウアイのハーエナへ行き、ロヒアウ(Lohiʻau)をキラウエアまで連れてきてほしい――というものでした。
けれど、その役目を進んで引き受ける姉妹はいませんでした。
遠いカウアイまで出向き、ロヒアウを連れて戻る。それは、簡単に引き受けられる旅ではありません。
そんな中で名乗り出たのが、末の妹ヒイアカイカポリオペレ(Hiʻiakaikapoliopele)でした。
ここから、物語の主人公が大きく入れ替わります。
これまで島々を渡り歩いてきたのはペレでした。
今度はヒイアカが、キラウエアを離れ、海の向こうのカウアイを目指すことになります。
ただし、ヒイアカは無条件で姉の頼みを受け入れたわけではありません。
旅に出れば、自分の目の届かないところに残していくものがあります。
その中には、ヒイアカが何より大切にしていた存在もありました。
「ロヒアウを連れてくる。」
その役目を引き受ける代わりに、ヒイアカもまた、ペレに約束してほしいことを伝えます。
ヒイアカが守ってほしかったもの
ヒイアカがペレに求めたのは、自分が旅をしているあいだ、プナ(Puna)に残す大切なものを守ることでした。
ひとつは、ホーポエ(Hōpoe)。
ホーポエはヒイアカのアイカーネ(aikāne)で、プナの土地やフラと深く結びつく存在です。アイカーネはとても親密な関係を表すハワイ語で、単純に「友人」や「恋人」のどちらか一語に置き換えてしまうと、その関係を狭くしてしまいます。
そしてもうひとつが、プナのオヒア・レフア(ʻōhiʻa lehua)の森でした。
ヒイアカにとって、ホーポエとこの森は、旅のあいだ置いていくことのできる、かけがえのないものでした。
だからヒイアカは、ロヒアウを連れ帰る役目を引き受ける代わりに、ホーポエとオヒア・レフアの森を傷つけないようペレに求めます。
ペレはそれを受け入れました。
けれど、条件を出したのはヒイアカだけではありません。
ペレもまた、ロヒアウを迎えに行く妹に守らせることを定めます。
ロヒアウを自分の夫にしないこと。
彼とのあいだに定められた身体のカプ(kapu=禁忌・守るべき決まり)を破らないこと。
こうして姉と妹は、それぞれが大切にするものをめぐって約束を交わしました。
このとき交わされた約束は、単なる旅立ちの条件ではありません。
ホーポエ。オヒア・レフアの森。そしてロヒアウ。
これから始まる長い旅の先で、この約束そのものが、ペレとヒイアカの関係を大きく揺さぶることになります。
