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モオレロ③|ヒイアカとロヒアウ――姉妹の約束を背負った長い旅

2026 8/06
文化・歴史
目 次

太鼓の音が、ペレをロヒアウへ導く

ある日、ペレは妹たちに、誰にも起こさないよう言い残して眠りにつきました。

体を横たえたのは、滑らかな溶岩の岩肌です。やがてペレが深い眠りに落ちると、どこからともなくフラの太鼓の音が聞こえてきました。

かすかだった音は、耳を澄ますほど遠ざかっていきます。

ペレの霊は眠る体を離れ、太鼓の音を追いかけました。

海を越え、島々の岬をたどっても、音の主はなかなか姿を現しません。ようやくペレが行き着いたのは、カウアイ島の北にあるハエナでした。

そこでは、大勢の人が集まり、フラが行われていました。

ペレがハーラウと呼ばれるフラの広間へ近づくと、人々は見知らぬ女性の姿に気づきます。道を開けた人々の間を進んだペレは、やがて一人の若い首長に目を留めました。

彼の名は、ロヒアウ。

フラの輪の中にいたロヒアウも、近づいてくるペレを見つめていました。太鼓も歌も止まり、広間は不思議な静けさに包まれます。

ペレは歌を唱え、ロヒアウは客人として彼女を迎えました。

二人は強く引かれ合い、そのまま三日三晩をともに過ごします。

けれども、ペレの体は遠いハワイ島で眠ったままです。いつまでもハエナに残ることはできませんでした。

三日目の夜が明けようとするころ、ペレはロヒアウに告げます。

自分はプナへ帰らなければならないこと。二人で暮らす場所を用意したら、女性を迎えに向かわせること。その女性が来たら、一緒にハワイ島へ来てほしいこと。

そう言い残すと、ペレは家を飛び出し、海の彼方へ消えていきました。

目を覚ましたロヒアウの隣には、もう誰もいません。

残されていたのは、再び会えるという約束だけでした。

姉妹が交わした、二つの約束

ハワイ島へ戻ったペレは、妹たちを集めました。

カウアイ島のハエナにいるロヒアウを、ここまで迎えに行ってほしい。ペレはそう頼みます。

しかし、島から島へ海を渡る道には、恐ろしい怪物や不思議な力を持つ者たちが待ち受けていました。旅の危険を知る妹たちは、誰も引き受けようとしません。

そこでペレが呼び寄せたのが、末の妹ヒイアカでした。

正式な名は、ヒイアカイカポリオペレ。「ペレの胸に抱かれたヒイアカ」という意味です。卵の姿だったころ、ペレが大切に抱いて海を渡った、あの妹でした。

そのころヒイアカは、プナの海辺で親しい友人ホーポエと過ごしていました。ホーポエはフラをよく知り、ヒイアカとともに踊る大切な仲間です。

ペレからの使いが到着する前から、ヒイアカは自分に長い旅が迫っていることを感じ取っていました。

呼び出されたヒイアカがキラウエアへ行くと、ペレは尋ねます。

カウアイ島まで行き、ロヒアウを連れて帰ってくれるか。

ほかの妹たちが恐れて断った旅でした。それでもヒイアカは、姉への思いから引き受けます。

けれども、旅には約束が必要でした。

まずペレは、帰り道でロヒアウに口づけをしたり、親密に触れたりしてはならないと告げました。二人がハワイ島へ戻ったあとも、最初の五日五晩はペレがロヒアウと過ごします。その期間が終われば、ロヒアウはヒイアカの伴侶となってよいという条件でした。

ヒイアカは、その約束を受け入れます。

そして今度は、ヒイアカがペレに二つの願いを伝えました。

自分が留守にしている間、プナにある大切なレフアの森を焼かないこと。

そして、親しい友人ホーポエを決して傷つけないこと。

ペレは、どちらの願いも守ると約束しました。

こうして姉妹の間に、互いの大切なものを守るための約束が交わされます。

ヒイアカが守るのは、姉が待つロヒアウ。

ペレが守るのは、妹が愛する森とホーポエ。

このときヒイアカは、長い旅の先で、この約束が物語のすべてを変えることをまだ知りませんでした。

森そのものが、敵になった

ヒイアカは、ペレに仕えるパウオパラエとともに、カウアイ島を目指して旅を続けていました。

その途中で出会ったのが、ワヒネオマオという若い女性です。

ワヒネオマオは、初めてヒイアカを見たとき、その気高い姿からペレ本人だと思いました。しかし、目の前にいるのがペレの末妹だと知ると、やがて二人の旅に加わります。

こうして、三人になった一行の前に、深い森が現れました。

パナエワの森です。

海辺を回れば、安全な道を進むことができます。しかし、それではカウアイ島に着くまでに時間がかかります。

ヒイアカは、森を抜ける近道を選びました。

ところが、森へ足を踏み入れたとたん、あたりの空気が変わります。

絡み合う木の枝。足元を覆う蔓。どこから聞こえてくるのか分からない鳥の声。

風がないのに葉が揺れ、ただの倒木に見えたものが、いつの間にか別の場所へ動いています。

この森を支配していたのは、パナエワという強大なモオでした。モオは、人や動物、木々の姿にも変わるとされる不思議な存在です。

ヒイアカたちが森へ入ったことは、すでにパナエワに知られていました。

道をふさぐ木も、枝から見下ろす鳥も、本当にただの木や鳥なのでしょうか。

ワヒネオマオには、何が敵なのか分かりません。

けれども、ヒイアカには見えていました。

静かに見える森のあちこちから、パナエワの仲間たちが三人を取り囲もうとしていたのです。

やがて森全体が目を覚ましたように動き始めました。

木々が道を閉ざし、蔓が足元へ伸び、隠れていた者たちが次々と姿を現します。

ヒイアカは逃げませんでした。

オリを唱え、助けを求めると、空を覆っていた雲が動きます。

風が森を駆け抜け、雨が激しく降り始めました。雷が鳴り響き、木の姿に隠れていた者たちは次々と倒れていきます。

パナエワの森は、ヒイアカたちをのみ込むことができませんでした。

三人はついに、出口の見えなかった森を抜けます。

旅の最初の大きな試練を越えたことで、ワヒネオマオはヒイアカの力を知り、ただの旅人ではなく、危険な道をともに進む仲間となりました。

けれども、森を抜けたヒイアカを待っていたのは、喜びではありません。

カウアイ島へ向かう道の先から、ロヒアウの運命を変える知らせが近づいていました。

死の知らせを越えて、ハエナへ

パナエワの森を抜けても、ヒイアカの旅はまだ終わりません。

一行は島々を進み、ロヒアウが待つカウアイ島を目指しました。

ところが、ワヒネカプと呼ばれる高地まで来たとき、ヒイアカが突然足を止めます。

遠く離れた場所で、何かが起きていました。

ヒイアカには分かりました。

ロヒアウは、もう生きてはいなかったのです。

まだカウアイ島にも着いていないのに、迎えに行くはずの相手が亡くなっている。ここまで危険な森を越えてきた旅が、すべて無駄になってしまったようにも思えます。

それでも、ヒイアカは引き返しませんでした。

ロヒアウの命が失われたからといって、姉から託された役目まで終わったわけではありません。

ヒイアカには、傷ついた者を癒やし、離れてしまった魂を呼び戻す力がありました。

一行は先を急ぎ、ついにカウアイ島北部のハエナへたどり着きます。

かつてペレが太鼓の音に導かれ、多くの人がフラを楽しんでいた場所です。

けれども、今のハエナに、あのにぎわいはありませんでした。

ペレが突然姿を消したあと、ロヒアウは再び会える日を待ち続けました。しかし、迎えはなかなかやって来ません。

絶望したロヒアウは、自ら命を絶っていたのです。

ようやく見つけたロヒアウは、声をかけても動きません。

けれども、ヒイアカは諦めませんでした。

ロヒアウのそばに立ち、魂を呼び戻すオリを唱えます。

一度で戻らなくても、呼びかけをやめません。

遠くへ離れてしまった魂を探し、少しずつ身体へ導いていきます。

やがて、失われていたロヒアウの魂が戻りました。

死んでいたロヒアウは、もう一度この世に目を開いたのです。

ヒイアカは、ペレの迎えとしてハワイ島から来たことを伝えました。

長く待ち続けていたロヒアウは、ヒイアカとともにペレのもとへ向かうことになります。

こうして、失われたはずの命を取り戻し、一行は帰りの旅へ出発しました。

ヒイアカは、姉との約束を守っています。

帰り道でロヒアウに親密に触れることもなく、ペレの待つキラウエアを目指して進みます。

そしてヒイアカは、姉もまた、レフアの森とホーポエを守るという約束を果たしていると信じていました。

破られた約束と、思いがけない再会

ロヒアウを連れたヒイアカは、長い帰り道を進んでいました。

姉から託された役目は、もうすぐ終わります。

ところが、ハワイ島へ近づいたヒイアカは、遠くの空に不吉なものを見ました。

山の向こうから、炎を映したような雲が湧き上がっています。

その光景を見た瞬間、ヒイアカには故郷で起きたことが分かりました。

大切に育ててきたレフアの森は、火に焼かれていました。

そして、帰りを待っていたはずのホーポエは、溶岩にのみ込まれ、海辺で波に揺られる岩の姿になっていたのです。

ヒイアカは、姉との約束を守ってきました。

どれほど長い旅になっても引き返さず、死んでいたロヒアウをよみがえらせ、帰り道でも彼に親密に触れることはありませんでした。

それなのにペレは、妹が守ってほしいと願った二つのものを、どちらも奪ってしまったのです。

やがて一行は、キラウエアへたどり着きました。

火口の向こうでは、ペレと姉妹たちが帰還を見つめています。

ヒイアカは赤いレフアの花を摘み、レイを編みました。一つを自分の首にかけ、残りをロヒアウにかけます。

そして、ペレからよく見える場所で、ロヒアウを強く抱き寄せました。

それは、帰り道で交わした約束を破る行為でした。

けれども、先に約束を壊したのはペレです。

姉妹たちが騒ぎ始めても、ペレはしばらく動きませんでした。

しかし、ヒイアカとロヒアウが抱き合う姿を見ると、その顔が変わります。

ペレは、ロヒアウを火で攻めるよう命じました。

炎がロヒアウを包みます。

ヒイアカが一度は死の世界から連れ戻したロヒアウは、キラウエアで再び命を失ってしまいました。

これまで姉のために危険な旅を続けてきたヒイアカも、もう以前のようにペレのそばへ戻ることはできませんでした。

ヒイアカはキラウエアを離れ、ロヒアウの故郷であるカウアイ島へ向かうことを決めます。

けれども、物語は悲しい別れだけでは終わりません。

ロヒアウの魂は、海の上をさまよっていました。

それを見つけたのが、ペレの兄カネミロハイです。

カネミロハイはロヒアウの魂を捕らえ、焼けて固まった体を見つけると、ばらばらにした体を元の姿へ組み直しました。そして、魂をその中へ戻します。

ロヒアウは、二度目の命を得たのです。

そのころヒイアカは、旅の途中でオアフ島のフラの場を訪れていました。

ヒイアカが歌い始めると、人々の中から、その歌に答える声が聞こえてきます。

聞き覚えのある声でした。

ヒイアカが振り返ると、そこにロヒアウがいました。

死んだと思っていたロヒアウが、人々の間から姿を現したのです。

長い旅の始まりには、ヒイアカはただ、姉の願いをかなえるために歩き出しました。

けれどもその旅の中で、怪物と戦い、仲間を得て、失われた命を救い、最後には姉の意志にも立ち向かう存在へと変わっていました。

二度も死を越えたロヒアウは、差し伸べられたヒイアカの腕の中へ向かいます。

こうして二人は、ようやく再会しました。

ホーポエとレフアの森を失った悲しみが消えたわけではありません。

それでもヒイアカは、誰かに決められた道ではなく、自分で選んだ新しい道を歩き始めたのです。

注 記

ヒイアカとロヒアウの物語には、出来事の順序や結末が異なる複数の伝え方があります。本記事では、Nathaniel B. Emersonが1915年に刊行した『Pele and Hiiaka』を主軸に、一続きの物語として紹介しました。

【主要参照資料】

Emerson, Nathaniel B. Pele and Hiiaka: A Myth from Hawaii. Honolulu: Honolulu Star-Bulletin, 1915.
U.S. National Park Service. “Pele & Hiʻiaka.” Hawaiʻi Volcanoes National Park.
Beckwith, Martha Warren. Hawaiian Mythology. New Haven: Yale University Press, 1940. Chapter X, “The Soul after Death”; Chapter XII, “The Pele Sisters.”
Westervelt, W. D. Hawaiian Legends of Volcanoes. Boston: G. H. Ellis Press, 1916. Chapters XII–XVII.

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