【歴史㉙】現代ハワイアン文化運動の広がり─土地を守る声と未来への希望

目 次

マウナ・ケアから広がる文化運動

朝の冷たい風が吹き抜けるマウナ・ケアのふもとで、ひとりの若者が声を張り上げました。
「ク・ハエ・ア・カ・アロハ!(Ku Ha‘aheo e Ku‘u Hawai‘i/我がハワイよ、誇り高く立ち上がれ)」
その声に呼応するように、人々が集まり、旗が空に翻(ひるがえ)り、フラのステップが大地を打ちます。
マウナ・ケアをめぐるTMT計画への反対運動は、単なる「反対」ではなく、ハワイアンたちのアイデンティティを取り戻す文化運動へと育っていきました。
「ここに立つと、山が語りかけてくるんだよ。祖先たちがちゃんと見守ってくれているって。」
そう話すのは、二十代のハワイアン男性。彼の瞳は、山頂を見つめながら静かに輝いていました。
マウナ・ケアでのこうした祈りと声は、オアフ島、マウイ島、カウアイ島へと広がり、それぞれの島でも土地や文化を守る動きが次々に立ち上がっています。
オアフ島ではカネオヘ湾の海を守る運動が高まり、マウイ島では古代の神殿跡を保護するための集会が開かれ、多くの人々が歌と踊りで意思を示しています。
「文化は博物館に飾るものじゃない。生きてるんだよ。」と、ある女性の言葉が強く心に残ります。
マウナ・ケアから広がった文化運動は、今もなお、ハワイ中の人々に問いかけています。
「私たちは何を守り、どんな未来を選ぶのか」と。

SNSがつなぐ新しい文化運動の形

かつては集会や新聞を通してしか伝わらなかった運動の声が、いまはスマートフォン一つで世界中に届く時代になりました。
マウナ・ケアを守る運動でも、SNS(Social Networking Service/ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が大きな役割を果たしています。
InstagramやTikTokには、山のふもとで響くメレ(詩)の歌声や、フラの踊りが生き生きと投稿され、世界中の人々が「何が起きているのか」をリアルタイムで知ることができます。
「私たちの声を、海を越えて届けられる時代になった。それがすごく誇らしい。」
そう話すのは、Protect Mauna Keaの活動を支える若い女性。彼女のスマートフォンには、世界各国から届いた応援メッセージが並びます。
さらに、SNSを通じて同じ問題意識を持つ先住民族や環境団体ともつながりが生まれ、マウナ・ケアの運動はハワイだけでなく、世界規模の文化運動へと発展しつつあります。
「ハワイの歌や踊りは過去のものじゃない。今を生きる私たちの力なんだ。」という言葉が、スマートフォンの画面越しに世界に響いています。

土地を取り戻す運動と成功の物語

マウナ・ケアを守る声は、やがて「土地を取り戻す」という、さらに大きな目標へつながっていきました。
ハワイ各地では、過去に奪われた土地を先住ハワイアンの手に戻そうとする運動が続いています。
例えば、ハワイ島のプウホヌア・オ・ホナウナウでは、長年にわたる交渉の末、かつて王族の神聖な避難所だった土地が州から返還されました。
「涙が出るほどうれしかったよ。ここはただの土地じゃない。祖先の足跡が息づいている場所だから。」
土地返還式の日、白い衣をまとった人々がフラを舞い、海に向かってチャント(祈りの詠唱)を響かせました。
その光景は、まるで時空を越えて昔のハワイに戻ったかのようで、見守る人々の目に涙が光っていました。
こうした成功の物語は、他の土地保護運動にも希望を与えています。
「私たちは小さな島の民かもしれない。でも声を上げれば、未来を変えられる。」
そう語るハワイアンたちの言葉には、大きな誇りと揺るがぬ決意が込められています。

若い世代が描く未来のハワイ

マウナ・ケアをきっかけに広がった文化運動の中で、特に大きな力を発揮しているのが若い世代です。
SNSを自在に使いこなしながら、彼らは伝統的な文化と新しい表現を結びつけ、世界へ自分たちの声を届けています。
「フラは昔の踊りじゃない。今を生きる私たちのストーリーなんだ。」
そう話すのは、オアフ島で活動する若いフラダンサーの女性。彼女はTMT反対運動の集会で、自ら振り付けをした新しいフラを披露し、大きな拍手を浴びました。
彼女の踊りには、星空、山々、海のきらめき、そして人々の願いが込められていました。
また、ハワイ語で作られた新しいメレ(詩)がSNSで拡散され、若者たちは「自分たちはハワイアンだ」という誇りを再確認しています。
「ハワイの文化は過去のものじゃない。未来を作る武器なんだよ。」
その言葉の通り、若い世代の胸には、祖先から受け継いだ想いと、新しい時代を切り開く強いエネルギーが宿っています。
彼らの存在が、ハワイの未来を明るく照らしています。

経済と文化のはざまで揺れるハワイ

文化を守りたいという思いの一方で、ハワイの人々は経済という現実とも向き合わなければなりません。
観光業はハワイの大きな収入源であり、多くの人々がその恩恵を受けて暮らしています。
「観光のお客さんが来てくれるから、家族を養えるんだよ。でも、それで自分たちの大事な場所が壊されるのは悲しい。」
そう話すのは、オアフ島のフラダンサーであり、ホテルでパフォーマンスをしている男性です。
彼は、観光客にフラを見せながらも、ステージを降りるとマウナ・ケアの運動に参加していました。
「経済も大事だけど、文化をただのショーにはしたくないんだ。」
この葛藤は、多くのハワイアンが抱える共通の思いです。
さらに土地開発が進むことで、生活費が高騰し、地元の人々が島を離れざるを得ないという深刻な問題も起きています。
それでも、人々はフラを踊り、歌をうたい、大地に祈りを捧げながら、どうすれば経済と文化を両立できるのか模索し続けています。
波音が静かに響く中で、彼らは今日も問い続けます。
「本当の豊かさとは、いったい何なのか」と。
次の記事では、こうした文化運動が現代ハワイ社会にどのように根づき、未来へ向けてどんな挑戦が続いているのかを、さらに詳しくお伝えします。

Noenoe K. Silva, Aloha Betrayed: Native Hawaiian Resistance to American Colonialism, 2004, Duke University Press
Davianna Pōmaikaʻi McGregor, Nā Kuaʻāina: Living Hawaiian Culture, 2007, University of Hawaii Press
Jon M. Van Dyke, Who Owns the Crown Lands of Hawaiʻi?, 2008, University of Hawaii Press
Candace Fujikane, Mapping Abundance for a Planetary Future: Kanaka Maoli and Critical Settler Cartographies in Hawaiʻi, 2021, Duke University Press
David E. Stannard, Honor Killing: How the Infamous “Massie Affair” Transformed Hawaiʻi, 2005, Penguin Books

MENU