「ありがとう」「ごめんなさい」「許してください」「愛しています」。
ホオポノポノと聞いて、この4つの言葉を思い浮かべる人も多いでしょう。
けれども、本来のホオポノポノは、一人で4つの言葉を繰り返すものではありませんでした。
家族の間に生まれた怒りや悲しみ、言葉にできずに残ってしまったわだかまり。それらを皆で見つめ、話し合い、少しずつほどいていくためのハワイの知恵でした。
「幸せになるための言葉」として知られるようになったホオポノポノ。その奥には、人と人とのつながりを大切にしてきたハワイの心があります。
ホオポノポノの意味
ホオポノポノ(hoʻoponopono)は、ハワイ語で「正す」「整える」「正しい状態にする」といった意味を持つ言葉です。
中心にあるのが、ポノ(pono)。
ポノには「正しい」「適切な」「善」「調和のとれた状態」など、ひとつの日本語には収まりきらない意味があります。
そのため、ホオポノポノを単に「許すこと」と理解すると、本来の意味が少し見えにくくなります。
大切なのは、乱れてしまったものを、もう一度ポノな状態へ戻すこと。
それが人と人との関係なら、傷ついた気持ちや誤解をそのままにせず、関係そのものを整え直していきます。
人と人との間には、ときどき小さな行き違いが生まれます。
ほんのひと言が心に残ったり、言えなかった言葉が少しずつ距離をつくったり。
そんなとき、「どちらが正しいのか」だけではなく、「どうすれば、もう一度よい関係に戻れるだろう」と考える。
そこに、ホオポノポノの原点があります。

家族で行ったホオポノポノ
伝統的なホオポノポノでは、家族の間に問題が起きたとき、関係する人たちが集まりました。
信頼される年長者などが話し合いを導き、祈りを捧げ、何が起こったのかを一つずつ明らかにしていきます。
誰かを言い負かすための場ではありません。
自分の過ちを認める。相手の言葉を聞く。必要なら謝る。そして互いに許し合う。
興味深いのは、そこで「ごめんなさい」と言って終わりではなかったことです。
必要であれば互いに埋め合わせをしながら、壊れてしまった関係そのものを整えていきました。
また、話し合いの途中には、いったん沈黙する時間が置かれることもありました。
感情が高ぶったまま言葉をぶつけ合うのではなく、少し黙って心を落ち着かせ、自分の行動や気持ちを振り返ります。
こうした時間は、ホオマル(hoʻomalu)と呼ばれました。
すぐに答えを出さなくてもいい。
話す時間があり、黙る時間がある。
そうしながら、絡まってしまった糸を一本ずつほどくように、人と人との関係を整えていったのです。
「許す」は「ほどく」
ホオポノポノを知るうえで、とても印象的なハワイ語があります。
カラ(kala)です。
カラには「許す」という意味がありますが、それだけではありません。
「ほどく」「解放する」「自由にする」という意味もあります。
誰かを許すというと、「相手のしたことを許してあげる」というイメージがあるかもしれません。
けれども、カラという言葉から見えてくるのは、少し違う姿です。
怒りや悲しみを抱えているとき、苦しいのは相手だけではありません。
その出来事を何度も思い出し、心の中で同じ言葉を繰り返している自分もまた、その出来事につながれています。
カラは、その結び目をほどいていくこと。
相手だけでなく、自分自身も、その出来事から少しずつ自由にしていくことなのかもしれません。
謝るときに使われる、
エ・カラ・マイ・イアウ(E kala mai iaʻu)
という言葉も、「私を許してください」「すみません」という意味です。
ホオポノポノで大切にされてきた「許し」は、過去をなかったことにすることではありません。
起きたことにきちんと向き合ったうえで、それにいつまでも縛られないように、絡まったものをほどいていく。
ハワイ語のカラを知ると、「許す」という言葉が少しやさしく見えてきます。

4つの言葉との違い
現在、日本をはじめ世界で広く知られているのが、
「ありがとう」
「ごめんなさい」
「許してください」
「愛しています」
という4つの言葉です。
けれども、昔のハワイの家族が、この4つの言葉を繰り返してホオポノポノを行っていたわけではありません。
20世紀になると、ハワイ人女性のモーナ・ナラマク・シメオナ(Morrnah Nalamaku Simeona)によって、伝統的なホオポノポノは、個人でも取り組める現代的な方法へと発展していきました。
伝統的なホオポノポノでは、関係する人たちが集まり、祈り、話し合い、互いに向き合いながら関係を整えていきます。
一方、現代に広まった方法では、自分自身の内側にある記憶や問題に向き合うことが中心になっています。
現在「ホオポノポノ」と呼ばれているものには、こうした違いがあります。
だからといって、4つの言葉に意味がないということではありません。
「ありがとう」と言うこと。
「ごめんなさい」と言うこと。
誰かを許すこと。
そして、愛を伝えること。
どれも、人と人との関係の中で大切な言葉です。
ただ、「4つの言葉を唱えることが、昔から続いてきたハワイのホオポノポノそのもの」と考えてしまうと、その奥にある豊かな文化が見えなくなってしまいます。
本来のホオポノポノを知ることで、4つの言葉にも、これまでとは少し違った深さを感じられるかもしれません。
今も残るハワイの知恵
ホオポノポノは、遠い昔のハワイだけにあった習慣ではありません。
その知恵は形を変えながら、今のハワイにも受け継がれています。
時代が変われば、その方法も少しずつ変わります。
けれども、その中心にあるものは、とてもシンプルです。
問題をなかったことにしない。
相手の話を聞く。
自分の過ちにも向き合う。
必要なら謝り、埋め合わせをする。
そして最後には、互いをその問題から解放する。
人と人との関係は、いつもきれいなままではいられません。
大切な人だからこそ傷つくこともあり、分かってほしい相手だからこそ、言葉が強くなってしまうこともあります。
そんなとき、関係が一度乱れたからといって、すべてが終わるわけではありません。
もう一度、整えていけばいい。
それが、ホオポノポノという言葉が伝えていることなのかもしれません。
誰かとの間に、小さなわだかまりが残っているとき。
「どちらが正しかったのだろう」と考える代わりに、
「どうしたら、もう一度ポノな状態に戻れるだろう」
と考えてみる。
すると、ほんの少しだけ違う景色が見えることがあります。
誰かを許すことは、相手のためだけではありません。
自分の心を、ずっと握りしめていたものから解き放つことでもあります。
「許す」と「ほどく」。
その両方を表す、ハワイ語のカラ。
絡まった糸は、無理に引っ張れば、もっと固く結ばれてしまいます。
少しずつ、ゆっくりと。
人の心も、そんなふうにほどいていけばいいのかもしれません。
参考資料
Mary Kawena Pukui, Samuel H. Elbert, Hawaiian Dictionary/ E. S. Craighill Handy, Mary Kawena Pukui, The Polynesian Family System in Kaʻū, Hawaiʻi/ Mary Kawena Pukui, E. W. Haertig, Catherine A. Lee, Nānā I Ke Kumu: Look to the Source/ Manulani Aluli Meyer, Hoʻoponopono: Healing through Ritualized Communication/ University of Hawaiʻi at Hilo, Wehewehe Wikiwiki Hawaiian Language Dictionaries/ Self I-Dentity through Ho’oponopono

