フラとともに生きたハワイ王室 ─ 音楽で伝える誇りと歴史

目 次

王室にとってのフラと音楽の意味

ハワイのフラ(Hula)は、美しい踊りであると同時に、王室にとっては国家の誇りを示す大切な文化でした。
ハワイ王室は代々、宮廷行事や重要な儀式にフラメレ(Mele/詩や歌)を欠かさず取り入れ、そのたびに国の歴史や神々への祈りを人々に伝えてきました。
古代の王たちにとって、フラは単なる娯楽ではなく、国の統治に欠かせない精神的支柱だったのです。
例えば、カメハメハ大王(Kamehameha I)もまた、宮廷でフラの演目を行い、その場を政治的な結束の場として活用していたと伝えられています。
王の権威を示す場で踊られるフラは、動きのひとつひとつに深い意味が込められ、神話や王族の血筋を物語るものでした。
王族たちは、自らの血統や功績を讃えるオリ(Oli/詠唱)を作らせ、それをフラの中で披露させることで、自分たちの存在を人々の記憶に刻みました。
現代のフラを踊る多くの人々が王族を讃えるメレを選ぶのは、まさにその伝統を受け継ぐ証でもあります。
ハワイ王室とフラの関係は、歴史の中で常に切り離せないものであり、今もフラを踊るたび、私たちは王たちの声を感じているのです。

カメハメハ大王と宮廷のフラ

ハワイ統一を成し遂げたカメハメハ大王(Kamehameha I)にとって、フラ(Hula)は政治の道具でもあり、精神の支えでもありました。
戦いの勝利を祝う席や、同盟を結ぶ重要な場面では、必ずフラが披露され、王はその踊りに国家の安泰を託しました。
特に大王は、王族の威厳を示すためにオリ(Oli/詠唱)を重視し、自分の血統や偉業を讃える詠唱を数多く作らせました。
たとえば、大王を称える「He Inoa No Kamehameha」というオリは、勇敢さと神々の加護を謳い、宮廷の儀式や大きな祭りで繰り返し詠まれたと伝えられています。
宮廷の中で踊られるフラは単なる芸術ではなく、王の統治の正当性を人々に印象づける手段でもありました。
また、王の側近や王族の女性たちもフラを通じて政治的な意志を表現しました。
たとえば、カアフマヌ(Kaʻahumanu)は大王の妻であり摂政でもありましたが、政治の場でフラを用い、時には強いメッセージを込めた踊りを披露したとも伝わっています。
こうしたフラの活用は、王たちがただの権力者ではなく、文化と精神の象徴であったことを物語っています。
今もフラを踊る人々は、大王の物語や彼を称えるオリを通して、遠い王の時代と心を繋いでいるのです。

カラカウア王とフラの復活

ハワイ王室の中でも、カラカウア王(Kalākaua)の名前はフラ(Hula)の世界で特別な意味を持っています。
19世紀、キリスト教宣教師たちによってフラが禁止され、人々の前で踊ることが難しくなった時代、カラカウア王は「ハワイの文化を取り戻すべきだ」と強く訴えました。
彼の言葉「Hula is the language of the heart, and therefore the heartbeat of the Hawaiian people.」(フラは心の言葉、そしてハワイの人々の心臓の鼓動なのだ)は、今もフラを愛する人々の心に刻まれています。
王は自らメレ(Mele/詩や歌)を作詞し、それを宮殿や祝賀行事で披露させました。
たとえば「He Inoa No Kalākaua」は、王の名を讃えるオリ(Oli/詠唱)で、力強く堂々とした調子が、王の誇りとハワイの独立の象徴でした。
さらに王は、外国の賓客が訪れるたびにフラを披露し、「ハワイは文化豊かな独立国だ」と示したのです。
こうしたカラカウア王の取り組みがあったからこそ、今日のフラは再び公の場で踊られるようになり、ハワイ文化の象徴として世界に知られる存在になりました。
今もメリーモナーク・フェスティバル(Merrie Monarch Festival)という大会名には、王の愛称「Merrie Monarch(陽気な君主)」が冠され、王が守り抜いたフラの精神が息づいているのです。

リリウオカラニ女王が遺したメレとフラ

ハワイ王室の中で、フラ(Hula)メレ(Mele/詩や歌)を語るとき、リリウオカラニ女王(Liliʻuokalani)の名を外すことはできません。
彼女は王国最後の君主であるだけでなく、優れた作曲家としても知られ、心を打つメレを数多く遺しました。
女王の代表作「アロハ・オエ(Aloha ʻOe)」は、別れの哀しみだけでなく、ハワイの人々への深い愛を歌い上げた曲として、今もフラの舞台で踊られています。
しかし女王の音楽は「アロハ・オエ」だけではありません。
「He Mele Lāhui Hawaiʻi」は王国の国歌として歌われ、「Kuʻu Pua I Paoakalani」は女王が軟禁中に作った曲で、祖国への愛と自由を願う想いが込められています。
これらのメレは、いずれもフラで踊られる際に、女王が抱えた苦悩やハワイの誇りを表現する大切な演目となっています。
現代のフラダンサーたちは、女王のメレを踊るとき、その言葉一つひとつに込められた感情を感じ取り、自分自身の踊りに乗せています。
女王が音楽を通して守りたかったハワイの心は、今もフラを踊る人々によって受け継がれ、舞台の上で生き続けているのです。

王たちが未来に託したフラの灯

ハワイ王室の歴代の王や女王たちは、時代がどれほど変わってもフラ(Hula)を決して手放しませんでした。
それは彼らにとって、ただの踊りではなく、神々への祈りであり、ハワイという国の誇りそのものだったからです。
王たちはオリ(Oli/詠唱)メレ(Mele/詩や歌)を作り、その中に自分たちの物語や国への想いを込めました。
その伝統は現代にも脈々と続き、ハワイ中、そして世界中の舞台で踊られるフラの中に息づいています。
舞台に立つダンサーたちが王や女王のメレを踊るとき、それは単なる振付の再現ではありません。
彼らは過去の王室の声を聞き、その心を自分の身体で語り継いでいるのです。
だからこそ、今もフラを愛する私たちが踊るたび、そこには王たちの誇り、ハワイの歴史、そして未来へ繋ぐ希望が宿っています。
ハワイ王室が守り抜いたフラの灯は、これからも消えることなく、多くの人々の心に光をともしていくでしょう。

参考文献:Noenoe K. Silva, Aloha Betrayed: Native Hawaiian Resistance to American Colonialism, 2004, Duke University Press; Davianna Pōmaikaʻi McGregor, Nā Kuaʻāina: Living Hawaiian Culture, 2007, University of Hawaii Press; Jon M. Van Dyke, Who Owns the Crown Lands of Hawaiʻi?, 2008, University of Hawaii Press; Ralph S. Kuykendall, The Hawaiian Kingdom Volume 3: 1874–1893, 1967, University of Hawaii Press; Gavan Daws, Shoal of Time: A History of the Hawaiian Islands, 1968, University of Hawaii Press

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