【歴史㉗】声を上げた人々─ハワイ州時代に芽生えた文化の反逆

目 次

ハワイアン・ルネサンスが生まれた時代背景

ハワイがアメリカ合衆国の50番目の州となった1959年以降、島々は観光業の発展とともに、目まぐるしく変化していきました。
本土からの移住者が増え、英語が主流となり、街にはモダンな建物やホテルが立ち並ぶようになります。
経済は活気づきましたが、その一方で多くのハワイの人々は「自分たちの文化が失われてしまうのではないか」という不安を募らせていきました。
王国の時代から続く土地への想い、言葉やフラ(Hula)への誇り──そうした大切なものが急速に押し流されていくように感じられたのです。
こうした不安が静かに積み重なり、やがて「自分たちの文化を取り戻したい」という強い想いへと変わっていきました。
これが後にハワイアン・ルネサンス(Hawaiian Renaissance)と呼ばれる大きな動きの始まりだったのです。

文化の反逆としてのフラと音楽の復活

1970年代に入ると、ハワイの人々の間に「自分たちの文化を取り戻したい」という声がさらに大きくなりました。
その象徴のひとつがフラ(Hula)の復活です。
観光ショーとして消費されていたフラを、本来の神聖な芸術として甦らせようと、多くのクム・フラ(Kumu Hula/フラの師匠)たちが立ち上がりました。
また、ハワイ語(Hawaiian language)の歌詞で歌う現代音楽が次々と誕生し、若者たちの心を強く揺さぶりました。
特に、故カレオ・オ・ラカ・イ・カフヌナ(Kaleo O Laka I Kahikina)をはじめとするアーティストたちが伝統を尊重しながらも、モダンな旋律を取り入れた曲は、人々に「ハワイらしさとは何か」という問いを突きつけました。
こうした芸術活動は単なるエンターテインメントではなく、ハワイ文化の誇りを取り戻す「文化の反逆」そのものだったのです。

土地をめぐる闘いとアイデンティティの再生

ハワイアン・ルネサンスの時代には、文化だけでなく土地を守る運動も広がっていきました。
ハワイ王国時代から続く土地の権利は、併合や州昇格の中で複雑に変化し、多くの先住ハワイアンが土地を失う結果を招いていました。
1970年代後半、カホオラヴェ島(Kahoʻolawe)の爆撃訓練に反対する運動が始まり、ジョージ・ヘルム(George Helm)やウォルター・リッティ(Walter Ritte)といった若きリーダーが声をあげます。
「私たちのアイナ(ʻāina/土地)を返してほしい」という願いは、次第にハワイ全土の人々の共感を呼び、土地とアイデンティティを取り戻す動きはさらに大きなうねりとなっていきました。
こうした運動は、土地は単なる資源ではなく、「祖先と繋がる命の場所」だというハワイアンの精神を改めて示すものでした。

文化の火を守り続けた人々

ハワイアン・ルネサンスの時代には、数多くの人々が声を上げ、行動を起こしました。
その中でも、ジョージ・ヘルム(George Helm)は特に知られる存在です。
彼はミュージシャンであり、活動家でもあり、その歌声と情熱的な言葉は多くの人々の心を揺さぶりました。
「土地は命であり、文化は心だ」と語った彼の言葉は、今もハワイアンの胸に深く刻まれています。
また、エディス・カナカオレ(Edith Kanakaʻole)は、クム・フラ(Kumu Hula)として、古典フラの継承とハワイ語(Hawaiian language)の保存に生涯を捧げました。
彼女の教えは、若い世代に「文化は過去のものではなく、未来をつくる力だ」という希望を伝え続けています。
こうした人々の努力があったからこそ、ハワイアン・ルネサンスは単なる一過性のブームに終わらず、今もなお力強く息づいているのです。

ハワイアン・ルネサンスが残したもの

ハワイアン・ルネサンスは、単なる一時的な文化運動では終わりませんでした。
今、ハワイでは子どもたちが学校でハワイ語(Hawaiian language)を学び、フラ(Hula)が地域の誇りとして生き続けています。
かつて失われかけた文化は、若い世代の手によって守り育まれ、ハワイの未来を形づくる大きな力になっています。
同時に、土地や主権をめぐる問題は今も完全には解決しておらず、「私たちは誰なのか」という問いは世代を超えて続いています。
しかし、その問いに向き合う姿勢こそが、ハワイアン・ルネサンスの最大の遺産といえるでしょう。
人々が声を上げ、大切なものを守ろうとしたあの時代の精神は、今も確かに息づいているのです。
次の記事では、この文化の力が現代ハワイにどのように根づき、未来へと繋がっているのかをさらに詳しくご紹介します。

参考文献:Noenoe K. Silva, Aloha Betrayed: Native Hawaiian Resistance to American Colonialism, 2004, Duke University Press; George Kanahele, Hawaiian Renaissance, 1997, University of Hawaii Press; Jon M. Van Dyke, Who Owns the Crown Lands of Hawaiʻi?, 2008, University of Hawaii Press; Gavan Daws, Shoal of Time: A History of the Hawaiian Islands, 1968, University of Hawaii Press

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