【歴史㉖】50番目の星─ハワイ州昇格と揺れる人々の心
州昇格への期待と葛藤
1959年、ハワイはアメリカ合衆国(United States)の50番目の州(state)として迎え入れられました。
人々はこの出来事を、長い間待ち望んだ「平等への扉」と感じる一方で、複雑な想いを抱えていました。
ハワイ王国の誇りを心に刻む世代にとって、州昇格は王国時代の完全な終わりを意味し、「自分たちの文化が失われてしまうのではないか」という深い不安もありました。
しかし同時に、合衆国の一員となることで、政治的権利や経済的な可能性が開かれるという期待も大きかったのです。
ハワイ州昇格は、島々に生きる人々の心に、誇りと不安、そして未来への希望が入り混じる、大きな節目となりました。
50番目の州になるまでの道のり
ハワイが州昇格(statehood)を果たすまでには、長い政治的な道のりがありました。
1898年にアメリカ合衆国に併合された後、ハワイは「準州(territory)」として半世紀以上を過ごしますが、その間、ハワイの人々には合衆国市民としての権利がすべて保障されていたわけではありませんでした。
多くの人々が、議会に代表を送れないことや、本土との経済格差に不満を抱いていました。
20世紀中頃になると、第二次世界大戦(World War II)を経験した若い世代の間で「合衆国の一員として認められたい」という声が高まり、州昇格運動(statehood movement)が大きなうねりとなっていきます。
1959年3月、アメリカ合衆国議会はハワイ州昇格法(Hawaii Admission Act)を可決し、8月21日には正式にハワイがアメリカの50番目の州として迎え入れられたのです。
このニュースがラジオや新聞で伝えられると、島々では喜びの声とともに、どこか寂しげなため息も聞こえていたといいます。
州昇格がもたらした暮らしと文化の変化
ハワイがアメリカ合衆国の50番目の州となったことで、人々の暮らしは少しずつ変わっていきました。
政治の面では、合衆国本土と同じように議会へ議員を送り出せるようになり、人々の声が国政に届くようになりました。
経済の面では、観光産業(tourism)がこれまで以上に活発になり、ハワイは「南国の楽園」として世界中から注目を集めるようになります。
一方で、この変化は文化に新たな課題をもたらしました。
フラ(Hula)やハワイ語(Hawaiian language)などの伝統文化が、観光の目玉として派手に演出される一方で、本来の神聖さや深い意味が誤解されることも多かったのです。
その中で、ハワイの人々は「文化を守りながら、新しい時代を生きる」という大きな選択を迫られることになりました。
州昇格はハワイに数多くの恩恵をもたらしましたが、それは同時に、自分たちのルーツと未来をどう繋いでいくかという、島の人々にとって大きな問いでもあったのです。
州昇格の先に見えた文化の誇りと模索
州昇格を果たしたハワイは、政治的にはアメリカ合衆国の一部となりましたが、人々の心の奥には「自分たちはハワイアンである」という誇りが変わらず息づいていました。
しかし、観光業の発展とともに、フラ(Hula)やハワイ語(Hawaiian language)が商業的に利用される機会が増え、本来の神聖さが忘れられそうになる場面もありました。
そうした中で、ハワイの人々は「文化を守る」という強い意志を示し始めます。
学校や地域団体でのハワイ語教育の復活、フラを単なる観光の演目ではなく、心の表現として教える動きが生まれました。
若い世代が「自分たちのルーツを知りたい」と考え、フラや音楽、伝統文化を学ぶ姿が目立つようになったのも、この時代の大きな変化です。
ハワイ州昇格は確かに多くの可能性をもたらしましたが、それは同時に「ハワイアンであるとは何か」という問いを、人々に突きつける出来事でもあったのです。
未来へ繋ぐハワイアンの魂
ハワイが50番目の州となってから60年以上が過ぎました。
観光や経済の発展は、島々に多くの恵みをもたらしましたが、同時に「ハワイらしさ」とは何かを問い続ける日々でもありました。
今、フラ(Hula)は観光ショーの華やかさだけでなく、心を通わせる祈りの舞として、多くの人々に大切にされています。
ハワイ語(Hawaiian language)もまた、失われかけた時期を経て、学校や家庭で少しずつ蘇りつつあります。
若い世代は、自分たちのルーツを誇りに思い、古いメレ(詩)を学び、島々の自然や歴史を守ろうと声をあげています。
ハワイ州昇格は、かつて人々の心を大きく揺らしましたが、その揺れは決して消えることのない「ハワイアンの魂」への問いかけでもありました。
そしてその問いは、これからも未来へと受け継がれていくのです。
次の記事では、州昇格以降に起きた社会運動や文化ルネサンスの歩みをご紹介します。
参考文献:Tom Coffman, Nation Within: The History of the American Occupation of Hawaiʻi, 2009, Duke University Press; Ralph S. Kuykendall, The Hawaiian Kingdom Volume III, 1967, University of Hawaii Press; Jon M. Van Dyke, Who Owns the Crown Lands of Hawaiʻi?, 2008, University of Hawaii Press; Gavan Daws, Shoal of Time: A History of the Hawaiian Islands, 1968, University of Hawaii Press