島ごとに違う風
ハワイの風には、その土地ならではの名前がつけられているものが数多くあります。
風の名前を聞けば、どの島の、どの地域を吹いているのかがわかる──そんな風たちは、ハワイの自然と人々の暮らしがどれだけ深く結びついているかを教えてくれます。
中でも代表的なものとして、ハワイ島の「カウ (kaʻū)」、オアフ島の「マノア (manoa)」、カウアイ島の「マカナ (makana)」などがあり、それぞれに独自の性格があります。
フラの詩やメレ (mele)でも、こうした地名風は情景や感情の表現に欠かせない存在です。ハワイ語 風の多様性を感じることができます。
出典:Pukui, Mary Kawena. Place Names of Hawaii. University of Hawaii Press, 1974.
このように、ハワイ語 風に名付けられた様々な風が、島々の文化や風景を彩っています。
これらの風の名前は、ハワイ語 風を通じて、地域のアイデンティティと深く結びついています。
カウ – 大地を駆ける強風の精
ハワイ島の南部、カウ地区に吹く風は、ハワイで最も強く乾いた風のひとつとして知られています。溶岩台地を勢いよく吹き抜けるこの風は、農作物や人々の暮らしに大きな影響を与えてきました。
時に人が立っていられないほどの突風になることもあり、古代の人々はこの風に畏敬の念を込めて語り継いできたといわれます。フラでは、このカウの風を自然の厳しさや土地の力強さを象徴するものとして描写することもあります。
出典:Handy, E.S. Craighill & Pukui, Mary Kawena. *The Polynesian Family System in Kaʻū, Hawaii*. Mutual Publishing, 1998.
風を感じる時、私たちはハワイ語 風に込められた意味を再確認することができます。

マカナ – カウアイ島の神聖な風
カウアイ島の北西にそびえるマカナ山は、かつて火の儀式「オーアヒ(ʻōahi)」が行われた神聖な場所。その断崖から投げられた燃える薪が、風に乗って空高く舞う様子は、人々に「天からの贈り物=マカナ(makana)」のように映ったといわれています。
この地に吹く風は、ただの自然現象ではなく、神々と人をつなぐメッセージのように語られてきました。フラの中でも「マカナの風」は、神聖な場面や大切な約束を象徴する存在として登場し、その名を耳にしただけで心が引き締まるような、厳かで美しい響きを持っています。
出典:Hawaiʻi State Parks, Nā Pali Coast State Wilderness Park / University of Hawaiʻi Oral Traditions

かつてʻōahiの火の儀式が行われたMakana山の断崖
CC BY 3.0 Photo by Forest & Kim Starr, via Wikimedia Commons
カヒキナ – 朝の祈りとともに
「カヒキナ (kahikina)」は、ハワイ語で「東」、または「太陽が昇る場所」を意味します。特に日の出の地として神聖視されてきました。
この風は、夜明けとともにハラの葉を揺らしながら吹き始めることが多く、フラの世界では「新たなはじまり」「清め」「祈り」と深く結びついています。朝のカヒキナは、静かに舞い降りるように現れ、踊り手の心を整える導き手とも言える存在です。
伝統的なチャントやメレでは、「東の風」は ka hikina と表現され、神聖な場への導入やカプ(神聖な規律)の場面に合わせて詠われることがあります。特に夜明けの儀式や、カフ(神官)が自然と一体になる瞬間に象徴的に扱われるのがこの風です。
出典:Mary Kawena Pukui & Samuel H. Elbert, Hawaiian Dictionary, University of Hawaii Press / Nā Mea Hawai‘i Archives
カウマカニ – まなざしのように
「カウマカニ (kaumakani)」は、ハワイ語で「カウ (kaʻu)(私の)」+「マカ (maka)(目、まなざし)」+「マカニ (makani)(風)」と解釈されることがあり、「まなざしの風」とも訳されます。比喩的な名前をもつこの風は、特にメレやフラの詩的表現の中で重要な役割を果たします。
カウマカニ (kaumakani) は激しく吹き荒れる風ではなく、恋人や大切な人の存在を感じさせるような、優しく包み込む風として語られます。まるで「誰かが見つめているような」情感をともなうこの風は、ラブソングや離別の歌など、深い感情を描くフラにしばしば登場します。
また、この風は「無言の思い」や「離れていてもつながっている心」としての象徴でもあり、フラの中では目線や仕草に合わせて繊細に表現されることがあります。
出典:Puakea Nogelmeier, Nā Mele O Hawai‘i Nei: 101 Hawaiian Songs, University of Hawai‘i Press

マエアエ – 香りを運ぶやさしい風
「マエアエ (maeʻae)」は、静かで繊細な風を指し、とくに花や植物の香りをそっと運ぶ風として知られています。
フラでは、レイや自然の香りにまつわるメレ (mele)(歌)の中でこの風が使われ、花の香りを遠くまで届ける存在として、恋心や郷愁の象徴として登場します。
マエアエ (maeʻae) は強さではなく「やわらかさ」で語られる風。フラでこの風を表現する際には、滑らかで丁寧な動きが多く用いられ、観客に見えない風の「気配」まで伝えるような美しい演出がなされます。
出典:Mary Kawena Pukui & Samuel H. Elbert, Hawaiian Dictionary, University of Hawai‘i Press
アーパアパア – 山から吹く烈風
「アーパアパア (ʻāpaʻapaʻa)」という名前の風は、ハワイ島の高地から吹き下ろす、強く乾いた風を表します。
特にマウナケアやマウナロアのような高山から、雲をかき分けて吹き降りる様子が描写されることが多く、力強さと清らかさを象徴する風として、神聖な文脈でも扱われることがあります。
この風は、フラの中で勇壮な場面や浄化の意味合いで用いられることがあり、踊り手が大地と天とのつながりを表現する際に、重要な要素となります。
火山のエネルギーと結びついたような存在感を持ち、観客に「動」と「静」の境界を強く印象づける風です。
出典:Pukui, M. K., Elbert, S. H., & Mookini, E. T. (1974). Place Names of Hawaii. University of Hawaii Press / Mary Kawena Pukui, Nā Leo o Hawaiʻi ほか。

マウナケア山頂から望むマウナロア
CC BY 2.0 Photo by Joe Parks, via Wikimedia Commons, cropped
ケアウホウ – 安らぎを運ぶ海風
「ケアウホウ (keauhou)」は、ハワイ島のコナ地方にある地名でありながら、その名を冠する風も存在します。
この風は、穏やかな海辺を吹き抜けるやさしいそよ風として知られ、とくに夕暮れ時に心地よく体を包み込むような感触があります。
名前の意味は「新たな夜明け」や「新生」とも訳され、再生や癒しの象徴とされています。
フラではこのケアウホウ (keauhou) の風が、愛や思い出、そして魂の安らぎを表す表現として登場します。
感情の深さや、そっと寄り添うような優しさを舞に込める際に、ぴったりのイメージとなる風です。
出典:Beckwith, M. (1970). Hawaiian Mythology. University of Hawaii Press / Kanahele, G. (1992). Kū Kanaka, Stand Tall. Bishop Museum Press.
