若き王の決意
波を制する者として
ナハ・ストーンを動かした青年カメハメハは、もう逃れられない運命を感じていました。それは、バラバラに争う島々をひとつにまとめ、民を守る王となること。
波の音が、彼の胸に「今こそ立ち上がれ」と囁いていたといいます。
だが、その夢は血の川を渡る覚悟なしには叶わないものでした。
出典:Kuykendall, R. S. (1938). The Hawaiian Kingdom Vol. 1; Kamakau, S. M. (1869). Ruling Chiefs of Hawaii.
ハワイ島の覇権をめぐる戦い
親族すら敵となる運命
最初に立ちはだかったのは、彼の伯父カラニオプウの息子、カヘキリら親族でした。「血を分けた者同士でなぜ争うのか」──民の嘆きが海風に乗り島々を駆け抜けたといいます。
しかしアリイの世界は、血の絆よりも権力が優先される厳しい現実でした。
カメハメハは勝利を重ねながらも、戦で失われる命に胸を痛めていたと伝えられています。
出典:Kuykendall, R. S. (1938). The Hawaiian Kingdom Vol. 1; Kamakau, S. M. (1869). Ruling Chiefs of Hawaii.
西洋の武器がもたらした勝利
鉄と火薬の衝撃
カメハメハは、クック船長との出会い以来、西洋の武器の威力を痛感していました。マスケット銃、大砲──鉄と火薬が戦の行方を決める新しい時代が来ていたのです。
交易を駆使し、武器を手に入れたカメハメハ軍は、圧倒的な力で敵を追い詰めていきました。
しかし彼は武力に溺れることなく、島民をできる限り保護する道を探ろうとしていたといいます。
出典:Kuykendall, R. S. (1938). The Hawaiian Kingdom Vol. 1; Kamakau, S. M. (1869). Ruling Chiefs of Hawaii; Beaglehole, J. C. (1955). The Journals of Captain James Cook.
ヌウアヌの断崖での決戦
血に染まる絶壁
1795年、カメハメハはオアフ島を攻め、ヌウアヌ・パリという断崖へと敵軍を追い詰めました。風は凶器のように吹きつけ、波の音が戦の怒号に溶けました。
多くの兵が崖から転落し、その血が谷を赤く染めたと伝えられています。
カメハメハは勝利の陰で、あまりにも多くの命が絶たれたことに深い悲しみを覚えていたといいます。
その瞳は勝者の輝きではなく、苦悩の影を帯びていたとも語られています。
出典:Kuykendall, R. S. (1938). The Hawaiian Kingdom Vol. 1; Kamakau, S. M. (1869). Ruling Chiefs of Hawaii.
統一目前の最後の島々
血ではなく対話で
オアフ島を制した後も、残る島々はカメハメハにひざまずいたわけではありませんでした。とくにカウアイ島のカウムアリイ王は、強大な武力を知りつつも独立を守ろうとしました。
しかしカメハメハは無理に戦を仕掛けず、ついに交渉によってカウムアリイを従えることに成功します。
それは、血ではなく対話で平和を得たカメハメハの誇り高い決断でした。
この瞬間、ハワイ諸島は初めてひとつの王国としてまとまったのです。
出典:Kuykendall, R. S. (1938). The Hawaiian Kingdom Vol. 1; Kamakau, S. M. (1869). Ruling Chiefs of Hawaii.
波を制した王が見つめた未来
孤独な勝者の胸の内
カメハメハは全島を統一し、ハワイ王国の初代国王となりました。しかしその胸には、勝利の喜びだけでなく、失われた命への悔いが消えなかったといいます。
「アロハの心を忘れてはならない」──彼の言葉は、民を思う王の真実の声でした。
波を見つめるその背中は、栄光と孤独が共に揺れていたように語られています。
そして次回、カメハメハがどのように王国を治め、未来への礎を築いていくのか、その物語が幕を開けます。