雨にぬれて輝く島 ─ 名前をもつハワイの雨たち

目 次

雨に名前をつける島

ハワイ語には、地域ごとの雨に固有の名前があることをご存じですか?日本では「しとしと」「土砂降り」など雨の降り方で表現することが多いですが、ハワイではそれだけではありません。

たとえばマノアの谷に降る雨にはウア・キリキリ(ua kilikili)「激しい雨」、ホノルルに降る柔らかな霧雨にはカニレフア(kanilehua)「レフアの花を潤す雨」といった美しい名前がつけられています。

雨の名前はその土地の記憶と結びついていて、自然とのつながりを深く感じさせてくれるもの。ハワイアンの人々は、雨をただの気象現象としてではなく、語りかけてくる存在として親しんできたのです。

出典:M.K.Pukui & S.H.Elbert, *Hawaiian Dictionary*, University of Hawaii Press, 1986.


降り方ひとつで名前が変わる?

ハワイの自然は、まるで語りかけてくるようです。風に名前があるように、雨にもそれぞれ異なる名前があり、その土地、その瞬間、その感情に寄り添って表現されます。日本では「しとしと」「ざあざあ」といった擬音語が多く使われますが、ハワイでは雨そのものに名前を与える文化が根づいてきました。

このような雨の名前は、古代の詩やフラの歌詞(mele)にも多く登場し、自然と人との深いつながりを表しています。ハワイの人々にとって、雨はただの気象現象ではなく、心や魂を映すものでもあったのです。

海のように広がる優しい雨

ケアウアケア(Ke ʻAuwākea)は、空と海がとけ合うように静かに降る雨です。白く霞むような細かい雨粒が、水平線の向こうまで続くような印象を与えることからこの名がつきました。

フラでは、遠くの愛しい人を思いながら舞う情景や、穏やかな気持ちを表現する場面で登場することもあります。雨が光をやさしく散らしながら降り注ぐ様子は、心を包み込むような安心感を与えてくれます。

雨にもキャラクターが宿る

古代ハワイ語には、なんと300近い「雨の名前」が存在し、それぞれに色、強さ、時間帯など特徴があります 。 たとえばナウル (nāulu) は、「突然襲ってくる通り雨」の意味。スコールのように急に降り、驚かされる雨のことです。

一方、リリーリーフア (līlīlehua)」 は、「レフアの花に漂う霧のように細かくしっとりした雨」を指します 。

名前に込められた意味を知ると、その雨が“どんな表情”で島に訪れているかを、肌で感じられるようになります。 こうした感覚は、ハワイの自然をもっと身近に感じるヒントになるはずです。

出典:Dave Campbell, “Hawaiʻi Has Nearly 300 Special Names for Its Rains” (2024); Hawaii Magazine, “Hawaiians Have More Than 200 Words for Rain” (2015)

場所ごとに語られる雨の物語

ハワイの雨には、地名と結びついた名前も数多く存在します。たとえばカーヒコ・オ・マノア (Kāhiko o Mānoa)は、オアフ島マノア渓谷に降る、しとしとと優しい雨の名前。

「カーヒコ」とは「古(いにしえ)の装い」という意味で、この雨が緑豊かなマノアを美しく包み込む様子を詩的に表現しています。

また、キリフネ(Kilīhune)は、花の香りを運ぶようなごく細かい霧雨を指し、特に朝や夕暮れどきの空気を柔らかくする雨として知られます。

これらの名前は、ただの天気を超え、そこに住む人々の感性や、土地の記憶と深く結びついているのです。

出典:Lloyd J. Soehren, “Place Names of Hawai‘i”; University of Hawaiʻi Press


フラに息づく雨の名前

ハワイのメレ(詩や歌)には、自然を象徴する言葉が数多く登場しますが、なかでも雨の名前は特別です。

たとえばリリノエ (Lilinoe)は、ハレアカラ山の山頂に降る霧雨で、神話では霧の女神の名としても知られます。フラにこの言葉が登場するとき、それは優雅さと神秘をまとった情景として描かれます。

またアープアケア(ʻĀpuakea)は、白く輝くような雨。特にカウアイ島などのメレに多く見られ、愛しい人への想いを重ねる表現として使われることもあります。

どちらの名前も、単に雨を表すのではなく、その土地の空気、感情、そして愛そのものを含んだ言葉として、フラの表現を深く支えているのです。

出典:Puakea Nogelmeier, “Nā Mele o Hawai‘i Nei: 101 Hawaiian Songs”