ゴスペルフラ─信仰とハワイ文化をつなぐ物語

目 次

フラのルーツとキリスト教

神話から始まったフラ

フラ(Hula)はもともとハワイの神話や宗教儀礼の一部として始まりました。

自然や神々を讃える詠唱(チャンティング)や、王族への賛美を体で表現する神聖な踊りだったのです。

そこには多くの神々の名前や伝説が込められており、古代ハワイでは宗教的な儀式として大切にされてきました。

出典:Hawaii State Archives (2023). Origins of Hula.



ゴスペルフラの誕生と歴史背景

19世紀のハワイ。カメハメハ王朝の時代に、西洋からの宣教師たちが島々に到来し、キリスト教が広まり始めました。彼らは聖書とともに讃美歌を持ち込み、教会を建て、教育と信仰を通して新しい価値観を広めていきます。

その影響は王族にも及び、カピオラニ王妃やリリウオカラニ女王、そしてカラカウア王など、多くの王族がクリスチャンとして洗礼を受け、礼拝に参加しました。教会で王族が賛美歌を歌う姿は、信仰とハワイの伝統が交わる象徴的な光景でもありました。

一方で、当時の宣教師たちはフラを“偶像崇拝の儀式”とみなし、厳しく禁止しました。ハワイの人々にとってフラは単なる舞ではなく、神々や自然とのつながりを祈りとして表す神聖な文化です。そのため、この禁止令は精神的な断絶を生み出しました。しかし、やがて王族や文化人たちがフラの価値を再評価し、公の場で復興を支援するようになります。

そうした流れの中で誕生したのが「ゴスペルフラ」です。これは伝統的なフラの所作にキリスト教の信仰を込め、賛美歌の旋律に乗せて心を神に向ける表現として生まれました。信仰と文化を対立させるのではなく、調和させる道を選んだハワイの人々の知恵と希望のかたち。それが、ゴスペルフラの出発点となったのです。

出典:Hawaiian Mission Houses Historic Site, Timeline of Hawaiian Missionary Activity; Kawaiahaʻo Church History; Liliʻuokalani, *Hawaii’s Story by Hawaii’s Queen* (1898); Hawaiian Journal of History, Vol.36 (2002)

クリスチャン・フラダンサー

クリスチャンのフラダンサーにとって大きな課題は、フラがもともとハワイの神々を讃える踊りだったというルーツにどう向き合うかです。

多くのクリスチャンは、ハワイの神話や宗教的要素を含む曲は踊らない、または曲の歌詞をよく吟味し、神への賛美だけを踊りで表現するようにしています。

「誰を讃えて踊るのか」という意識をはっきり持ち、キリスト教の信仰を最優先にして、フラに取り組みながら守るのが彼ら自らの信仰をを守っています。

出典:Hawaii Christian Fellowship (2024). Faith and Hula.



ゴスペルフラがもたらすもの

信仰を超えて心を癒す踊り

ゴスペルフラは、キリスト教の信仰を土台にしていますが、その優雅で心をこめた動きには、宗教を超えた普遍的な癒しの力があります。

日本ではキリスト教に馴染みがない人も多い中、ゴスペルフラを踊ると「心が落ち着く」「涙が出る」という声がよく聞かれます。

それは、踊りが単なるパフォーマンスではなく、祈りや感謝、愛を伝える手段だからです。

信仰の世界が理解しがたい方でも、ゴスペルフラのやわらかで美しい表現に心が癒されるのは、人が誰しも持つ「愛されたい」「許されたい」という深い願いに触れるからなのかもしれません。

出典:Hula Handbook (2023). Gospel Hula Ministry.

フラで神を賛美するということ

踊りに込める祈り

もともと神話や宗教儀礼として始まったフラですが、今ではクリスチャンにとっても信仰を表す美しい手段となりました。

ゴスペルフラは、踊りを通して神への賛美や感謝を伝える新しい表現の形です。

踊る人の心が祈りで満たされるとき、そのフラはまさに信仰そのものになるのです。

出典:Hula Handbook (2023). Gospel Hula Ministry.

讃美歌とは

静かで荘厳な祈りの歌

讃美歌(Hymn)は、教会で礼拝の際に歌われる、歴史の古い聖歌です。

歌詞は神様への賛美、感謝、信仰の告白を静かに表現するものが多く、曲調はゆったりとして厳かです。

ハワイの教会では、これらの讃美歌をフラで踊り、手の動きで歌詞を表現することがあります。

讃美歌でよく踊られる曲

Amazing Grace(アメイジング・グレイス) 神の恵みへの感謝

How Great Thou Art(ハウ・グレート・ダウ・アート) 主の偉大さを讃える讃美歌

Blessed Assurance(ブレスド・アシュアランス) 祝福された確信

Hallelujah Chorus(ハレルヤ・コーラス) ヘンデルのメサイアより、主を讃える合唱曲

出典:Hymnal Society (2022). Hymns in Worship.

ゴスペルソングとは

喜びを表す力強い歌

ゴスペルソング(Gospel Song)は、讃美歌に比べて歴史が新しく、感情を強く表現する歌が多いのが特徴です。

曲調も明るくリズムがあり、手拍子やコーラスで盛り上がる曲が多いです。

ゴスペルフラでは、このようなゴスペルソングに振りをつけ、踊りで神様への喜びを表現します。

ゴスペルソングでよく踊られる曲

Lord, I Lift Your Name on High(ロード・アイ・リフト・ユア・ネーム・オン・ハイ) 神の御名を高く上げる

Shout to the Lord(シャウト・トゥ・ザ・ロード) 神への喜びを歌う

Give Thanks(ギヴ・サンクス) 感謝をささげる

God Will Make a Way(ゴッド・ウィル・メイク・ア・ウェイ) 神が道を開いてくださる

Above All(アバヴ・オール) すべてに勝る神の愛

I Love You Lord(アイ・ラヴ・ユー・ロード) 主への愛を告白する

You Raise Me Up(ユー・レイズ・ミー・アップ) 神が支えて高めてくださる

Hallelujah(ハレルヤ/Haleluia) 主を讃える賛美の言葉、様々なゴスペルソングで歌われる

出典:Gospel Music Association (2023). Gospel Songs and Worship.