【歴史⑱】民を想う心─リリウオカラニ女王が歩んだ希望への道
音楽に満ちた幼き日々──リリウオカラニの誕生
リリウオカラニ(Liliʻuokalani)は、1838年、ホノルルの町に生まれました。
彼女の本名はリディア・カマカエハ(Lydia Kamakaʻeha)といいます。
幼い頃から歌声が美しく、家の中には常に音楽が流れていたと言われています。
家族はカメハメハ王家と血縁があり、王族として育てられた彼女には、幼いながらも王国の未来を背負う重みが少しずつのしかかっていきました。
彼女は教育熱心な家族のもとで学び、英語や西洋の文化にも触れながら育ちましたが、心の奥にはいつも「ハワイの民を守りたい」という優しい思いがあったと言われています。
人々は、幼いリディアが歌うハワイアン・チャント(chant)に耳を傾け、彼女の声に王家の運命を感じたとも伝えられています。
のちに「民を想う心」を貫いた彼女の人生は、すでにこの幼い日々に芽を出していたのです。
出典:Hawaiian Historical Society
王家の血を継ぐプリンセスの歩み
成長したリディア・カマカエハ(Lydia Kamakaʻeha)は、王族としての責務を意識するようになりました。
彼女はホノルルのロイヤル・スクール(Royal School)で教育を受け、西洋の歴史や礼儀作法を学びました。
しかし心の奥では、ハワイ語(Hawaiian language)や伝統の詩(mele)、チャント(chant)に対する愛情を忘れることはありませんでした。
若いリディアは宮殿の宴の席でフラ(Hula)の旋律に耳を傾け、時には自らも歌声を響かせたと言われています。
彼女の歌声は、人々に静かな感動を与え、「この王女こそ民の心を知る人」と囁かれたそうです。
カメハメハ大王の血を引く王家の一員として、また未来の指導者候補として、リディアは民への思いを深めながら、その日々を過ごしていきました。
出典:Hawaiian Historical Society
カラカウアの死と即位への道
1889年頃から、兄であるカラカウア王(Kalākaua)の健康は少しずつ悪化していきました。
ハワイ王国は近代化の波に揺れ、政治も不安定さを増す中で、王は多くの重圧を背負っていました。
1891年、カラカウア王は病のためアメリカ合衆国(United States)サンフランシスコで崩御し、ハワイへ戻ることはありませんでした。
この知らせをホノルルで聞いたリディアは、深い悲しみに暮れながらも、王家の義務を強く感じたと言われています。
民衆が黒い喪服をまとい、王宮周辺は沈痛な空気に包まれる中、ハワイ王国議会(Legislature)はすぐに新たな王を選ばねばなりませんでした。
兄の遺志と民への思いを胸に、リディアは女王リリウオカラニ(Liliʻuokalani)として、王国を導く決意を固めていきます。
「ハワイの未来は私の祈りそのもの」──そう心に誓った瞬間が、後に波乱の歴史を刻むことになるのです。
出典:Hawaiian Historical Society
女王即位──ハワイ王国最後の希望
1891年1月29日、ホノルルの空はどこまでも澄み渡っていました。
イオラニ宮殿(ʻIolani Palace)の正面階段には、黒い喪章を胸に付けた人々が集まり、王国全体が厳かな空気に包まれていました。
その中央に立つリディア──新たに女王リリウオカラニ(Liliʻuokalani)として宣誓する彼女は、ハワイ語(Hawaiian language)で祈りを捧げました。
「私は神と民のために尽くします」──その言葉は、人々の心に深く刻まれたと言われています。
彼女の声は震えながらも、王族としての誇りと責任に満ちていました。
王冠を戴く儀式は簡素ながらも美しく、民衆の目には涙が光っていたと記録されています。
この日、ハワイ王国は「民を想う心」を掲げる最後の君主を迎えたのです。
そしてリリウオカラニ女王の前には、想像を超える試練の波が待ち受けていました。
出典:Hawaiian Historical Society
リリウオカラニの夢が描く王国の未来
女王リリウオカラニ(Liliʻuokalani)は、王冠を戴いたその日から、「民のための王国」を築く決意を強く抱きました。
彼女の心には、カラカウア王(Kalākaua)の遺志を継ぎ、ハワイ文化を守り抜きたいという思いがありました。
即位後、女王は王宮の中で民の声に耳を傾け、ハワイ語(Hawaiian language)による教育や文化の保護をさらに進めたいと考えていました。
しかし、王国を取り巻く状況は想像以上に厳しく、外国人勢力が政治に強く影響を及ぼし始めていました。
女王自身も、その目に映る未来に小さな不安を感じていたと言われています。
それでも彼女は、信仰と民への愛を胸に、王国を導こうと静かに決意していました。
次の記事では、女王がどのようにして新憲法を目指し、民衆の希望を託されたのか、その波乱の物語をお伝えします。
出典:Hawaiian Historical Society