【歴史②】神々と血が支配した時代─カメハメハ大王誕生前のハワイ諸島
神々とアリイが統べる古代ハワイ
血脈と祈りが交錯する世界
カメハメハ大王（Kamehameha I）が生まれる以前のハワイ諸島は、神々と人間の世界が密接に絡み合う、独特の社会でした。
人々は火の女神ペレ（Pele）の怒りを恐れ、海の神カナロア（Kanaloa）に航海の無事を祈り、そして日々の暮らしのすべてを神々の意思に委ねていました。
この神々の世界と民を繋ぐ役割を担っていたのが、各島を治めるアリイ（Aliʻi）たちです。アリイは単なる首長ではなく、神聖な血筋を持ち、その存在自体が神々から授けられたものとされていました。史料によると、彼らは「神々の意志を代弁する者」として、民の暮らしから戦の決断まで、すべてを統べていたと伝えられています。
しかし、そのアリイたちもまた、人間であるがゆえに野心と恐れに揺れていました。各島にはそれぞれ誇り高き王族が君臨し、血の繋がりさえ裏切りの火種になることも珍しくなかったのです。兄弟が兄弟を倒し、叔父が甥を討つ──そんな激しい権力争いが絶え間なく繰り返される世界でした。
それでも、その血なまぐさい時代の中で、人々の心にはアロハ（Aloha）の精神が根強く息づいていました。史料には「血で争うアリイも、民を思う気持ちは同じだった」と記されており、祈りと誇りが交錯するこの時代が、後にカメハメハ大王が登場する土壌となったのです。
出典：Hawaii State Archives（https://digitalarchives.hawaii.gov/）
血で分かたれた諸島の抗争
権力と裏切りの連鎖
古代ハワイでは、強大な権力を持つアリイ（Aliʻi）たちが各島を支配していました。
ハワイ島にはカラニオプウ（Kalaniʻōpuʻu）、マウイ島にはカヘキリ（Kahekili）、オアフ島にはカラニヌイアヒナ（Kalaninuiʻiahina）らが君臨し、それぞれが王権の正統性を主張していました。
しかし、彼らは血縁で繋がっていながらも、権力と領土を巡る果てしない戦いを繰り広げていたのです。史料には「兄弟は敵、叔父は仇」とも記されるほど、血の絆が簡単に裏切りに変わる世界だったと伝えられています。
また、神々の意志を盾にするのも常套手段でした。王たちは戦の前に「神が我らに勝利を授ける」と宣言し、自らの正当性を示しました。信仰と策略が渦巻くこの時代は、まさに神々と人の欲望が交錯する時代だったのです。
そんな中で、誰もが恐れと期待を抱き始めた存在──それが、やがてカメハメハとなる一人の少年でした。
出典：Hawaii State Archives（https://digitalarchives.hawaii.gov/）
ナハ・ストーンに刻まれた予言
未来を動かす巨石の伝説
古代ハワイには、ひとつの特別な伝説が語り継がれていました。それがナハ・ストーン（Naha Stone）です。
この巨大な石を動かすことができる者こそ、ハワイ諸島を統一する王になる──そう信じられていたのです。
島々のアリイたちは、その伝説を恐れながらも無視できず、未来の覇者の行方に神経を尖らせていました。史料には「石を動かした者には、神の血が流れる」と記されています。
幼いカメハメハがこの試練に挑む日、人々は息を飲み、その運命の瞬間を見守ったと伝えられます。
この伝説が島々を一つにする鍵となり、やがて若きカメハメハの野望を支える力となったのです。
出典：Hawaii State Archives（https://digitalarchives.hawaii.gov/）
クック船長の来航がもたらした衝撃
未知との邂逅が変えた世界
1778年、ハワイ諸島の海に白い帆が現れました。それはイギリスの探検家ジェームズ・クック（James Cook）の艦隊でした。
彼らの船を最初に見たハワイの人々は、それを「神々の乗り物」と信じ、恐れと敬意をもって迎え入れたと伝えられています。史料には「神の来訪」と記されるほど、その衝撃は大きかったのです。
しかし、クック船長がもたらしたのは憧れだけではありませんでした。西洋からもたらされた鉄（Iron）や銃（Gun）は、島々の戦のバランスを一変させ、アリイたちの間で激しい交易競争が始まりました。
さらに、西洋人が持ち込んだ病がハワイの人々を苦しめ、島々には大きな悲しみが広がりました。史料には「神が与えた富が、同時に死をもたらした」とも記されています。
この未知の世界との邂逅が、のちのカメハメハの人生に大きな影響を与えることとなるのです。
出典：Hawaii State Archives（https://digitalarchives.hawaii.gov/）
カメハメハ大王への道の始まり
運命を背負う若き王子
クック船長（James Cook）の来航は、強い衝撃とともにカメハメハの心に火を灯しました。
鉄（Iron）や銃（Gun）がもたらす力を目の当たりにし、彼は次第に「ハワイ諸島を一つにまとめる」という強い決意を抱くようになります。史料には「血を流すのは望まぬ。しかし、島々が分かたれたままでは、やがて異国の手に落ちる」と語ったと伝えられています。
各島のアリイたちは、武器や交易で優位を得ようと争いを激化させていましたが、その裏でカメハメハは静かに力を蓄え、支持を集めていきます。
波の音が告げる未来──彼の耳には「すべてを一つにせよ」という神々の声が聞こえていたとも言われます。
次回、若きカメハメハが血の戦いに挑み、いかにして王の座へ駆け上がるのか。その物語がついに動き出します。
出典：Hawaii State Archives（https://digitalarchives.hawaii.gov/）
