【歴史⑲】揺れる王国─民衆がリリウオカラニ女王に託した夢

目 次

新たな女王──揺れる王国に芽生える希望

1891年、リリウオカラニ(Liliʻuokalani)がハワイ王国の王位を継ぐと、王宮には新たな空気が流れました。
宮殿の白い回廊には、女王の穏やかな足音が響き、その姿をひと目見ようと民衆が門の外に集まっていたと言われています。
カラカウア王(Kalākaua)の死を悲しむ一方で、人々は「新しい時代が来るかもしれない」という希望を抱いていました。
民衆は、リリウオカラニ女王が民のための政治をしてくれると信じていました。
しかし、王国は決して安泰ではありませんでした。
外国人実業家や商人たちが政治に強く関わり、ハワイ王国の未来は見えない霧に包まれていたのです。
それでも女王の目は、民を守るために揺らぐことはありませんでした。
「ハワイは私の家族──私はその家族を決して手放しません。」
そう語ったと言われる女王の言葉が、多くの民にとって光となりました。

出典:Hawaiian Historical Society

民を守る誓い──新憲法への想い

女王リリウオカラニ(Liliʻuokalani)は即位後、すぐに王国の現状を知ることになります。
ベイオネット憲法(Bayonet Constitution)によって、外国勢力が政治の実権を握り、ハワイ王国の王権は著しく弱まっていました。
民衆の中には、土地を失い、政治に声を上げることすらできなくなった人々も多くいました。
「民のための王国」を信じる女王は、その現実に胸を痛めたと言われています。
宮殿の執務室で女王は何度も祈り、夜遅くまで書物を読み、民を救う方法を探し続けました。
そして女王の胸に芽生えたのが、新しい憲法を作り、再び王権を取り戻し、民衆に発言権を取り戻させるという大きな理想でした。
「ハワイは神の授けた楽園(paradise)。民を守ることが、私の使命です。」──女王のその想いは、やがて激しい嵐を呼ぶことになります。

出典:Hawaiian Historical Society

迫る影──女王を阻む勢力

1893年初頭、女王リリウオカラニ(Liliʻuokalani)は新憲法の草案を用意し、政府要人たちに示しました。
その憲法には、王権の復活と、民衆により多くの投票権を与える内容が盛り込まれていました。
しかし、白人実業家や外国人商人たちは激しく反発しました。
彼らは自らの利益を守るため、女王の改革を「王政復古の野望」だと批判し始めたのです。
イオラニ宮殿(ʻIolani Palace)の外では、憲法の噂をめぐって人々がざわめき、街の空気は目に見えぬ緊張で張り詰めていました。
「女王は我々の自由を奪おうとしている」──そんな声が、実業家たちの間から漏れ伝わりました。
女王自身も、目の前で支えてくれていた一部の議員たちが離れていくのを感じ、胸を締め付けられるような思いを抱いたと言われています。
それでも、女王の瞳は揺らがず、「民を救うために、退くわけにはいかない」と固く心に誓っていました。

出典:Hawaiian Historical Society

宮殿を包む緊張の空気

イオラニ宮殿(ʻIolani Palace)の大理石の床を、女王リリウオカラニ(Liliʻuokalani)の靴音が静かに響いていました。
外では反対派の集会が続き、緊張感は宮殿の壁をも突き抜けるようでした。
女王の側近たちは、宮殿内で声をひそめ、互いに視線を交わしながら「このままでは危険だ」と囁き合っていたと言われています。
一方、女王は書類を前に黙考を続け、時折窓の外を見つめていました。
そこには、憂いと強さが同居するまなざしがありました。
「民を救うには、この道しかない」──女王の心の声は、決意に満ちていたものの、その瞳にはかすかに涙の光が揺れていたとも伝えられています。
その日、王宮の空には低い雲が垂れ込み、ハワイの青空はどこか遠く感じられたのでした。

出典:Hawaiian Historical Society

王国を守る女王の涙

宮殿を取り巻く緊張は、ついに臨界を迎えました。
反対派は臨時政府(Provisional Government)の樹立を声高に叫び、アメリカ合衆国(United States)の支援を取り付けようと動き始めました。
女王リリウオカラニ(Liliʻuokalani)は、民を血で汚す戦いだけは避けたいと強く願っていました。
「もし流血を招くなら、私は王位を下りることもいとわない。」──その言葉は、女王の苦渋と愛を物語っています。
彼女は臨時政府に対し、暴力を避けるために一時的に権力を譲るという苦しい決断を下しました。
その夜、女王は宮殿の書斎で一人祈りを捧げたと伝えられています。
ハワイの星空の下で、女王の目には涙が溢れていたと言われます。
しかしその胸には、民への尽きぬ愛と、いつか王国を取り戻す希望が、かすかな炎のように灯り続けていたのです。
次の記事では、廃位と獄中生活、そして女王が遺した美しい歌の物語をお届けします。

出典:Hawaiian Historical Society

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