フラは花と語る──レイに込める想いとその選び方

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花は言葉──フラの世界では、何を身につけるかがすでに踊り

フラの舞台で目を奪われるのは、手の動きやステップだけではありません。踊り手の髪にさした花、胸元を彩るレイ──それらが放つ香りや色彩が、踊りの世界観を何倍にも広げてくれるのです。

ハワイでは花は“装飾”ではなく“言葉”です。甘く香るプア・ケニケニが語るのは情熱、緑のマイレは誠実な絆、燃えるようなレフアは大地への誇り。花を身につけるということは、自分がどんな想いを込めて踊るのかを、目に見える形で伝えることでもあります。だからこそ、フラにおいて花は、曲と同じくらい大切な表現手段なのです。

出典:Pukui, Mary Kawena. (1949). The Hula. Honolulu: University of Hawaiʻi Press


この花、あなたならどこに?──香り・色・島の個性から選ぶ

たとえば、レフアの花。真っ赤でふわっと広がる小さなブラシのような花びらは、ハワイ島の火山の力強さと結びついています。情熱的な曲、誇り高く舞う踊りにぴったりです。

一方、プア・ケニケニはクリーム色から橙色に変わる小さな花。首にかけると甘く官能的な香りが広がり、恋の歌やしっとりした曲調にやさしく寄り添います。マウイ島のロケラニは、やわらかいピンクのバラ。可憐で品があり、純粋な想いや感謝の気持ちをあらわすフラによく合います。黄色いイリマはオアフ島を象徴する花で、高貴で洗練された印象。レイにすると可憐さと強さが同居するような美しさを放ちます。

どの花も、色や香り、島の風景とつながっていて、自分のフラにどんな花が合うかを考えること自体が、すでにフラの一部なのです。

出典:Marie McDonald (2003) Ka Lei: The Leis of Hawaii. Mutual Publishing

髪にさす花、首にかけるレイ──同じ花でも印象は変わる

同じ花でも、どこに身につけるかでその印象は大きく変わります。たとえばプルメリア。髪に一輪さすと可憐で親しみやすく、南国の陽ざしを感じさせる雰囲気に。けれども首にレイとしてかければ、花の重なりが生み出すやわらかさと甘い香りで、ゆったりと包み込むような印象になります。

ティーリーフのレイは、儀式的な場面で使われることが多いですが、腰に巻いたり、肩から斜めにかけたりすることで、踊り全体に清らかな緊張感を生み出します。マイレの葉を長く垂らしたスタイルは、動くたびにふわりと揺れ、静かな曲調でも踊りに命を吹き込みます。

どの花を、どこに、どんな形で身につけるか──それは踊り手自身の解釈であり、フラという物語の語り口そのものなのです。

出典:Noʻeau Warner (1996) Nā Lei o Hawaiʻi. University of Hawaiʻi Press


この花を選んだあなたは、どんな踊り手?──花と心の対話

どの花を選ぶか──それは、どんな踊りをしたいのか、どんな自分を表現したいのか、という問いと向き合うことでもあります。しとやかに揺れる白いチューブローズを選ぶ人は、内なる情熱を静かに伝えたいのかもしれません。真っ赤なレフアを選ぶ人は、堂々と強く生きる姿を踊りにのせたいのかもしれません。花選びには、正解も決まりもありません。

けれど、花と向き合い、自分の心と向き合うその時間こそが、フラを深めていく大切なプロセスなのです。フラは、ただ振りを覚えるだけの踊りではありません。どんな花をまとい、何を伝えたいのか──その問いを大切にする踊り手には、レイも髪飾りも、そっと力を貸してくれるはずです。

出典:Hula Preservation Society. “Lei and Cultural Practice in Hula”. https://hulapreservation.org

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