【歴史㉕】移民たちが築いた島─ハワイ準州時代の物語

目 次

新たな時代の幕開け──準州ハワイの誕生

1900年、ハワイはアメリカ合衆国(United States)の準州(Territory)となり、新たな歴史の一歩を踏み出しました。
ハワイ王国の時代に築かれてきた伝統と誇りを抱えながら、人々は新しい国の一部として生きることを選ばざるを得ませんでした。
王政を知る世代にとって、それは誇りと痛みが入り混じる複雑な出来事でしたが、若い世代の中には、合衆国という広大な国の未来に希望を見出す者も少なくありませんでした。
しかし、政治が変わっても、島々を照らす陽光も、波の音も、人々が互いに支え合い生きる心は変わりませんでした。
その土地で、新たな時代を生きようとする人々の物語が、静かに始まったのです。

移民たちが紡いだハワイの多民族社会

ハワイが準州となった頃、島々にはすでに多くの移民たちが暮らしていました。
中国、日本、ポルトガル、プエルトリコ、フィリピン、そして韓国など、さまざまな国々からやって来た人々は、サトウキビ(sugarcane)やパイナップル(pineapple)のプランテーションで懸命に働きながら、それぞれの文化や言葉を島に持ち込みました。
しかし、厳しい労働条件や差別も多く、移民たちは「一緒に声をあげよう」と立ち上がることもしばしばありました。
ハワイ語(Hawaiian language)を話す先住の人々と、英語を学ぶ移民たちのあいだで、新しい島の言葉や習慣が少しずつ生まれていきます。
市場には様々な国の食材が並び、休日には各国の音楽や踊りが響き渡り、色とりどりの衣装が風に揺れていました。
そしてフラ(Hula)もまた、この時代の中で静かに息づき、多民族の人々に受け入れられながら、島の心を繋いでいったのです。

準州ハワイが抱えた光と影

ハワイが準州(Territory)となってから、島々にはアメリカの法制度が次第に浸透していきました。
それは近代化という希望をもたらす一方で、新たな問題も生んでいきます。
移民たちの中には、アメリカ市民としての権利を持たないまま、厳しい労働環境に置かれ続ける人々も多くいました。
法的な地位の違いは、給料や住む場所、子どもたちの教育の場面で、大きな隔たりとなって現れたのです。
一方で、準州時代はハワイの文化が絶えることなく受け継がれた時代でもありました。
教会や地域の集まりで、ハワイ語(Hawaiian language)の歌やチャント(oli)、そしてフラ(Hula)がひっそりと守り続けられ、島の人々はアイデンティティを失わずに生き抜こうとしていました。
その中には、異なる民族同士が助け合い、文化を交わらせていく小さな物語も数えきれないほど息づいていたのです。

州昇格への道と未来へのまなざし

20世紀半ば、ハワイ準州(Territory of Hawaii)の人々は、さらに新しい時代を目指して動き始めていました。
長い間、合衆国の一部でありながら州としての権利を持てなかったハワイの人々には、「平等に声を上げたい」という願いが大きく膨らんでいきます。
準州議会や地域のリーダーたちは、州昇格(statehood)を訴え続けました。
経済も大きく変わり、観光産業が急速に発展し、移民たちの子孫がホテル業や旅行業、文化の発信など新しい仕事に挑戦する姿が多く見られるようになりました。
フラ(Hula)はこの時代、観光産業の象徴のひとつとして世界に紹介される一方で、本来の神聖さや文化的価値を守ろうとする人々の想いも強まっていきます。
こうして、さまざまな民族のルーツを抱えながら一つの島の未来を築こうとする人々の姿が、次の時代を迎える大きな力となっていったのです。
次の記事では、ハワイがアメリカ合衆国の50番目の州として迎えた新たな幕開けをご紹介します。

参考文献:Thurston Twigg-Smith, Hawaiian Sovereignty: Do the Facts Matter?, 1998, Goodale Publishing; Ralph S. Kuykendall, The Hawaiian Kingdom Volume III, 1967, University of Hawaii Press; Ronald Takaki, Pau Hana: Plantation Life and Labor in Hawaii, 1983, University of Hawaii Press; Franklin Odo, Voices from the Canefields: Folksongs from Japanese Immigrant Workers in Hawaii, 2013, Oxford University Press; Eleanor C. Nordyke, The Peopling of Hawaii, 1989, University of Hawaii Press

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