コナの香りに会いに行こう──ハワイ島で出会う、コーヒーと人の物語

目 次

コナという名の土地が育てた、特別なコーヒー

火山の斜面に、コナだけの風が吹いています

出典:Hawai‘i Coffee Association, USDA Soil Survey

ハワイ島の西側に広がるコナ地区は、マウナロアとフアラライという2つの火山の斜面にあります。朝は強い日差し、午後には雲と霧、そして夜には涼しい空気──この毎日のリズムが、コナコーヒーの味わいをつくり出しています。昼夜の寒暖差が、豆に香りと甘みを与えてくれるのです。

さらに、火山の恵みである土壌は水はけがよく、栄養もたっぷり。深く根を張ったコーヒーの木は、ゆっくりと力強く育っていきます。ハワイの中でも、このコナの土地だからこそできる味。それがコナコーヒーの特別さのはじまりです。

日系移民が根づかせたコナの豆

家族で育てたコーヒーに、人生がありました

出典:Kona Historical Society, “Voices of Hawaiʻi,” Hawai‘i Public Radio

19世紀の終わりごろ、日本からハワイへ渡った人々は、サトウキビ農園での契約労働を終えたあと、小さな土地を手に入れ、自分たちの農園を始めました。コナコーヒーを育てるその農園には、毎日の暮らしが詰まっていました。 焙煎をするのはお母さん、袋詰めはお父さん、そして子どもたちは近所で販売のお手伝い。すべてが家族の仕事で、どの農園にもその家の名字が掲げられていました。

今も残る「Tanaka」や「Kobayashi」などの名前が、その歴史を物語っています。 コナコーヒーは、ただの作物ではありません。厳しい自然の中で家族とともに生きる日々の中から生まれた、大切な「人生の味」だったのです。

100%コナが語る、小さな農園の誇り

ひと粒ひと粒に、本物と呼べる理由があります

出典:Hawai‘i Department of Agriculture, Kona Coffee Farmers Association

「Kona Blend」と書かれたコーヒーの袋を見かけたことがあるかもしれません。でも、その中にコナ産の豆が10%しか入っていないとしたら、ちょっと驚きませんか? 実はそれが、現実なのです。残りの90%は他国から仕入れた安価な豆。

けれど“Kona”という名前だけが大きく印刷されている──そんな表示が、長いあいだ問題になってきました。 だからこそ、本当にこの土地で育てられた豆だけを使ったコーヒーには、「100% Kona Coffee」としっかり明記されます。それは、小さな農家さんたちが一粒ずつ丁寧に摘み、心を込めて焙煎し、自らの名前で販売するからこそ言える誇りなのです。

コナという名前は、ただの産地ではありません。それは土地を守ってきた人たちの誇りであり、味に込められた真心の証でもあるのです。

観光じゃなくて出会い 農園で感じるコナの香り

香りよりも先に、人のぬくもりに出会えます

出典:現地農園インタビュー(Kona Earth, Buddha’s Cup ほか)

ハワイ島の西側をドライブしていると、小さな看板がふいに目に入ります。「Tasting OK」と、手書きの文字が書かれた農園の入口。少し不安になりながらも車を降りると、焙煎された豆の香ばしい香りがふわっと広がってきます。

「どうぞ、飲んでみてね」 麦わら帽子をかぶったおばあちゃんの、そんな一言に迎えられて入る農園には、観光地にはない時間が流れています。豆の話、雨のこと、収穫の季節──コーヒーを片手に、ゆっくりと話が始まります。 一杯の味を知る前に、その一杯を育てた人たちに出会える場所。それがコナの農園なのです。

未来へつなぐ一杯 コナの名前を守るということ

変わりゆく時代の中で、大切にしたいものがあります

出典:Hawai‘i Climate Adaptation Portal, Kona Coffee Cultural Festival 公式資料

最近では気候変動の影響で、雨の降り方が変わったり、病気や害虫の心配が増えたりしています。さらに、農業を続ける若い人も少なくなってきました。コナの農園の中には、すでに看板を下ろした場所もあるそうです。 それでも、「この土地とコーヒーを次の世代に残したい」と語る農園の方がいます。理由はシンプルです。

「ここで私たちが生きたことを、未来にも伝えたいから」。その言葉の中に、土地への愛情と誇りが詰まっていました。 私たちが手にする一杯のコナコーヒーは、ただの飲み物ではありません。その中には、大地の力、人の思い、そして未来への希望が静かに込められているのです。

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